過保護
「本当なら俺がついていたいんだけど……、ムルデンを他に任せるわけにはいかないからね、仕方ない」
仕方ないと言いながら、アレイストは私にベッタリくっついているアストリッドに恨みがましい目を向けた。
「ミッキはバッチリあたしに任せとけって」
てしてしと抱え込んだ私の頭を撫でつつ、アストリッドは何故か得意気。アレイストは疲れたようなため息をついてから、くれぐれも、と重ねて言う。
「大人しくしてるんだよ、ミツキ。いいね?」
………あんまりうるそう言われたら、逆のことしたくなるんは何でやろなー……。
「ミーツーキー?」
ハイは? と促す保父アレイストに取りあえずハイと答えた。
「何であんな過保護ですか。子ども違うのに」
お菓子をあげると言ってもついてっちゃダメです、
危ないと思うところに近寄っちゃダメです、
なんて、ちびっこい子を相手にするようだったアレイストに対してぷりぷり怒っていると、私のベッドでくつろぎまくっていたアスタが苦笑する。
「いや、普通ああなるでしょ。危機一髪だったんだから……ミツキの立ち直りが早い方が不思議よ、あたしは」
いつまでもガタガタしとんのはあたしの主義やないねん。
本人の前、出たらどうなるかわからんけど、そんときはそんときやし……、て、
「クリストフェル、牢に入れてあるって、大丈夫? ええとー…、」『ここんちの次に力がある家なんやろ、お坊っちゃまをそんな目に遭わせて文句言われへん?』
どないな力関係になっとるんか知らんけど、子どもがローヤなんかに入れられたらめちゃくちゃ抗議されるんやないやろか。
アレイストはケンカ売る気満々やし、来るなら来いってとこやろうけど。通り越して父に行かへんか。
私のそういう心配を、アストリッドは嘲笑で吹き飛ばした。
『ムルデンの現当主は腑抜けさ』
腑抜け、デスカー……。
『アレの親だからああなのか、親がああだからアレがそうなのかわかんないけど。ムルデンがジャンシールに次ぐ地位にいるのは、単にクリストフェルがいてのことだよ。あいつ、能力的にはアレイストに匹敵するからね。
そのクリストフェルがうちに反逆しようとして捕まった今は、当主自身がジャンシールに楯突くなんて根性はないな』
どっちかというと保身に必死なんじゃないか、
ここにいないオヤジを蔑んだ表情でそう言うアストリッドに、私はむぅ、と唇を尖らせる。
親子関係まで歪んどるのか。
横たわるアストリッドの傍にポスンと腰を落とした。
『なんかなぁ。アンタら一族、ホンマにややこしゅうて疲れるわ。何でそないに殺伐として生きとるん?』
平和に親戚付き合いしましょうよ、なんて吸血鬼の団体さんに向かって言うのはおかしいことかもしれないけど。
わざわざイガミおうてることないと思うんやけどな。
話聞いてると結束固いんか脆いんかどっちやねん! てツッコミとうなるんや。