異文化コミュニケーション
アレイストもアストリッドも隷族者は作っていない、と。
オモロイくらい狼狽えた二人を横目に、そう結論を教えてくれたのは苦笑気味のロルフだった。
うん、まあ許しといたろ。
私とかロルフとか、城で働いている人とか。限られた者以外の人間を餌扱いのそれ以下って、未だ気持ちの上ではそう思っているのは分かってる。
そう簡単には変わらんよな。
あたしだって人を好き勝手に扱おうとする彼ら一族を、クソッタレのオニチクショウやと思うのは止められんし。
ほんの2ヶ月前なんか、アレイストのこと、正体も知らないまま“胡散臭いウザキモ王子”やと思ってたけど、今は、“変わっとるしセクハラやけどたまに頼りになったり困ったとこはある大雑把に見たらええヤツ”になったし。
ゆっくり変わっていけばええんちゃうかな。
そうそう、あたしそもそも異文化コミュニケーションに来たんやん。
充分留学の目的は果たしとるよな〜。
……ちょっと予想外の異文化に触れることになってもうてるけど。
「とにかくミツキは隠れるか逃げるかする事。ヘタに立ち向かったりしないように」
スタンガンのことを根に持っているのかアレイストが厳しく私に言いつける。
はいわかりましたー。
リーリィが現れたら一目散にトンズラかましますー。
……コショウ爆弾とか、画ビョウマキビシとか効くやろかー。
「ミーーツーーキーー? このちっちゃい頭で何か余計なコト考えてないかい?」
ちらっと攻撃方法を思考のすみによぎらせた途端、アレイストの両手が私の頭をわし掴んだ。
あう、ちょっと思っただけや〜ん、一応、万が一に備えとくのが賢い小動物の生き方ってもんやで〜。
……マキビシはいかんな、草鞋(わらじ)履いてた頃はともかく現代では靴底に刺さって歩くときカシャカシャいうだけやし。それはそれでうっとうしいけども。
コショウに粉唐辛子入れんのはどうや。キョーレツに効きそうやけど逆流したらエライことになるか?
「………おかしなことしたら、俺のベッドに拘束するからね? 二十四時間体制でお仕置きだよ?」
「ハイ! ミツキは隠れます! 逃げます! 良い子にしています! くすぐるなしです!」
チッ、て何や。
ちゃんと真面目に約束したやんけ。
「取りあえずしばらくミッキはあたしとペアで行動ね〜。しっかりガッチリ守っちゃうから」
オンブお化けのようにアストリッドが私に後ろから抱きついてくる。
「アスタ、寮は?」
「優先順位を考慮して、一身上の都合により昨日付けで退寮しました。ダイジョ〜ブ、ちゃんとあたしたちの息がかかった奴を代わりの寮監として手配したから〜」
あたしたちの息が、って、ビミョーに不安になるんやけど。
寮の皆、ごめん。