不安と安心
生温いまなざしを送る私には気付かず、アレイストは話を続けていた。
「隷族者を潜ませていたのは、長期的な作戦だったんだろうな――俺の代になってから、動くつもりの」
「アイツが人間、しかも狩人を隷族者にしていたってだけでもビックリなのにね。……長老たちは絡んでると思う?」
「確率は半々ですね。絡んでいるとすれば、自分達の立場を脅かす我が君を排除したくもあり、しかし畏れ多くて出来るわけもない、そこで――」
三人の目が私に集まって。
「弱いところを狙ったか。ミツキに手を出して、俺がどう動くか見たかったということか?」
「あわよくば、我々に対する質にするつもりがあったのでは……」
そんな話題を出すことすら申し訳ないとばかりに、私に向かって少し頭を下げてロルフが言う。
あたし人質?
「……確かに、ミツキを盗られていればお手上げだな。俺は奴等のいいように操られるしかない」
フッとため息混じりに吐き出されたアレイストの言葉に、ゾクリと忘れたはずの恐れが這い上ってくる。
あの時――
アレイストが間に合わなければ――
――私は――
望まないことをされて。
連れ去られて。
以前アストリッドが話していた、イミューンの娘ような目に遭っていたんだろうか。
「――ミツキ?」
ぞわぞわと不安に襲われそうになった私は、隣に座るアレイストにぺったりくっついた。
珍しく自分から近寄る私に、不思議そうにアレイストが顔を覗き込んでくる。
「どうかしたか?」
「……んん、なんとなく…?」
自分でも、何故そうしたか、わからなかった。
でも、側に彼がいることを感じると、不安がなくなる気がして。
そしてその通りの効果がもたらされて。
なんやろ、これ。
アレイスト、精神安定剤的な物質、醸し出しとんのやろか。
不思議そうにしつつも、アレイストは膝を抱えてソファに座る私の頭を子猫にするように撫で、話し合いに戻った。
「いくら長老たちでも、狩人を隷族者にするなど許さないだろう。アレは、ムルデンの独断だと思う」
「一族の方々の半数以上は、隷族者といえど、狩人を飼うことに嫌悪を覚えるでしょうしね」
そうなん?
「狩人が口伝の中だけの存在になっていても、血の記憶に刻み込まれた忌避感はそうそう消えないからね。彼らが活躍していた時代、かなりの数の一族が殺されたことだし。
――まあ、その裏、我々のほうでも血狂い――無差別にヒトを襲う輩がいて、そうなるのも仕方なかったんだけど。害をなすかなさないかなんて、普通でもわからないし」
はあ、狩人ってすごいんやな、人間やのにアホみたいなワケわからん力があるイキモノと闘えるんやー。
しかも、ソレに恐がられるくらい。