計画


アレイストは書類を前に眉をひそめた。

「ヒルトン一家は五年前、街に越してきている。それ以前は南郊外にいたとあるが……」
「偽称でしょうね。まだそちらまでは調べておりませんが、おそらく情報操作もされていると思われます」
「だろうな。これを見ても、怪しいところはない。今回のことが無ければ、事が起きるまで気づけなかっただろう。ミツキには悪いけれど、ある意味ラッキーだったな」

「コトってなに」

今まで聞き流していたアレイストたちの会話に必死でついていく。
だって、もうここまで来たらわかる。この騒動が終わらない限り、私に平穏な留学生活はやって来ないのだと。

「――権力分布を引っくり返す――たぶん、クーデターだよ」

 はいい?

「クリストフェルの家は、ジャンシール……うちの次に地位が高い。ここ数百年、我が一家が代表を務めているが、先はわからない」
 お〜い次期家長。
 なんや無責任やで、その発言〜。

「――どこが上に立とうと、どうでも良かったんだが、そうも言ってられなくなったしね」

じぃ、と意味ありげに見つめられて私は首を傾げる。

 何やのん?

「ミツキ様々ですね」
「よくぞこの無気力男をやる気にさせてくれたよ」

訳知り顔で言い合うロルフとアストリッドに、アレイストは冷ややかな視線を投げた。

 やから、なんやの?

クーデター。
一族という猿山の、そのボスになったところで何か良いことがあるんだろうか。
他の者へ無意味に威張れるだけだよ、とアレイストは言うけど。
少なくとも、一族の“王”と言われているアレイストが他の人々から特別視されているのは間違いない。

 本人はウザイとしか思ってない様やけどな。

 ……でも、

 ――王など、生まれてこなければ良かったのだ――

そう言ったクリストフェルが、王になろうとする、その矛盾に私は引っかかりを覚える。

「アイツ、王様になりたかったですか? そんな、熱心……違う、えと……野心? あるようには見えませんでしたが」

彼の発言は黙ったままで、私が疑問を投げ掛けると、アストリッドは手をヒラヒラ振って否定を表した。

「単にアレイストに対抗したいだけなんだよ、ヤツ」
「昔からアレックスに敵愾心を抱いていましたからね」
「俺が知るか」

 心底嫌そうにアレイストは眉をしかめる。

 あっちでも(ボクちゃん)こっちでも(クリストフェル)モテモテやな〜、アレイスト。


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