隷族者


「特別製だから、そう簡単に脱出も出来ないし誰かが救出を手引きすることも出来ないよ。安心して?」

 優しげに頭撫でられてもそうはいかんちゅうかっ。
 特別製ってなんやろー、……怖いから聞かんとこ。

「しばらく使ってなかったから居心地は最悪だろうねぇ。ざまぁ」

とてつもなく意地悪な笑顔でご機嫌にアストリッドがのたまう。

 ひー。あの性格は置いといて、外見だけなら天使然とした野郎がそないなとこにぶちこまれてんの。
 気の毒なような、被害にあった当事者としては当然の報いのようなー。

 あれ?

「人質って、アイツのこと? 人質になるのですか?」
「なるだろうね。リリエラ・ヒルトンはムルデンの隷族者だから」

 えーと、また知らん言葉出てきた。

「隷族者は、一族に支配された者のことだ。血を提供し、どこまでも主人の思うまま行動するモノ。
 だから、主人を奪還するために必ずやって来る」

 ――アルジェインを持って。
 そこを迎え撃つ。

 て、なんや物騒なこと言うてますけど。せやけどアルジェイン使われたらヤバないん?

「ムルデンを盾にでもすればいい」

 そんな、初期装備のなべのふたみたいな言い方。

「いくら腕利きの狩人であっても、ムルデンごときに支配されているリリエラは“アルジェン”足り得ないさ」

 アルジェンというお人はエライ特別なお人らしい。

 いつもヒネくれてしか他人を述べないアレイストが、無意識にでも敬意を感じさせるような言い方をしてるし、それが当然というアストリッドやロルフの態度からもわかる。
人間で、イミューンであっても、一族にそういうふうに思われたひとがいたんだということは、何となく嬉しかった。

だから、リーリィにアルジェインを奪われたのか、ことさら気にかかる。

クソッタレ・クリストフェルの隷族者で、あの場所に私をおびき寄せたのも、ヤツの命だったんだろう。

 でも、支配、なー……、そんな感じやなかった気がするんや。
 とにかくあたしがリーリィにごっつぅ何や嫌われとるのは分かったけど。

良い友人になれるかな、と思ったあとだけに、演技だったことにちょっと傷付いた。
いやけっこう傷付いた。

「ミツキ、ムルデンから何かを聞いた?」

あのときのことを聞かれて、私は眉間にシワを寄せる。

 思い出すのが嫌ならまだいいとアレイストは言ったけど、そんなヤワやないわ。

 一晩ぐっすり寝たし、もう平気。
 どっちかっていうと、今はムカつきの方が勝ってる。
 既にアレイストにずたぼろにされたんは置いといて、なんか仕返ししたらな気がすまん。
 精神攻撃になんやええ方法ないやろか。


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