不快
へ? は? ナニ?
気づけば何だか良くされる体勢。
すなわちアレイストのおヒザの上に子どもみたいにお座り。
なんやねん、と言いかけ――紅い瞳にぶつかり、ぱくりと口を閉じた。
ななななんですか、ナニユエですか、何故に怒ってはるんですかあれいすとくん!
冷気漂うニッコリ笑顔のアレイストはキョトキョト視線をさ迷わせる私の顔を覗き込んで。
「………何だって?」
やさしくやさしく、訊き直す。
め、目が笑てへん、笑てへんでえ!
「な、何て、何?」
びくびくしながら、更に訊ね返すと、細められる、瞳。
すう、と指が頬から顎を辿った。
『キス、されたの、あいつに』
『キスとかそんなええもんちゃうで殴られて口の中切れて血ィ出てそれ舐められたっていうか、ッひゃ!』
腫れた頬に当てられた手が、首を滑って喉元に。―――血を、吸われたところ。
『っごめ、クソッタレにしこたま吸われた……っ』
ってなんで謝らんとあかんのや? 自分の中のわずかに冷静な部分がツッコミを入れる。
いや、あの、なんちゅーか、今までアレイストにしか血ィあげてへんかったし、やっぱり気分悪いかなー、
って、被害者はあたしやーーーッ!!
鎖骨あたりを辿っていた指が、首の後ろに回る。
下ろしたままの髪を掬い上げ、アレイストの視線がぐるりと私の表面をなぞった。
麗しい眉根に何本もシワを寄せて。
そんな顔しとったらアト付きよるで。
セクハラとか変態とか吸血鬼とか、色んな難を隠す役割を果たしてるせっかくの美貌を保つため、痕になりそうな眉間の線を伸ばしてやるべきか否か悩んでいると、低くアレイストが呟くのが聞こえた。
「……人のものに好き放題してくれたじゃないか、あの、」
―――――め。