安心するのは


やっぱり何でだかアレイストの匂いに落ち着いて、安心する私がいる。
強く抱きしめられて、腹の奥に固く凝って私を苛んでいた恐怖と嫌悪が、ほろほろ解けて崩れていくのを感じた。

 ――セクハラ王子が傍に居るのが安心やなんてどうかしとる。

でも、だけど、アレイストの腕には暖かいものしか感じられない。
私がされたことに、間に合ったことに、震えて、安堵の息を吐いたりする。
だから、私は身体に回された腕にぎゅうとしがみつくことにした。

ふとアレイストが眉をしかめて、私の頬を手のひらで包む。ズキズキ痛んで熱を持っているほう。

『……殴られたの?』

激高するのを抑えるように、潜めて訊いてくる声に頷く。
時間が経つにつれ頬の殴られた痕は熱を持ち、今は赤いだけだけど、明日以降青痣になるのが予測できてユウウツ。
指先で切れた唇の端をなぞる。

 しばらく何か口にする度に沁みるやろうなー。

『あいつ、とんだサディストやな』

 ……またヤなこと思い出した。

「ミツキ?」

咎めるように呼んで、アレイストが私の手を掴む。
気付かないうちに、手の甲で唇をゴシゴシ擦っていたらしい。

 あれ。
 なんで。
 さっきあんだけキレイにしたのに。
 まだ、ぜんぜん。気持ち悪いのが取れへんの。

むっと口を引き結んで、しつこく唇を擦る私の仕草に眉を顰めたアレイストが、やめなさいと兄のように叱って来る。

『傷が広が――』
『やって、ちゅーされたんキモチワルイ、』

 あかん。
 もっかいウガイしてこよ。

ソファーから立ち上がり、レストルームに行こうとした。
がくん、と引っ張られて倒れそうになった身体が、強い腕に掬われる。


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