違う手のひら
ガシガシ歯を磨きながらバスルームから出てくると、テーブルの上には既にご飯の用意が整えられてた。
これから食事をしようというのに激しく歯磨きをしている私にアレイストが少し首を傾げる。
ちょっと待てと合図をして、歯茎から血が出そうなくらい、口の中を掃除した。
感触、残っててキモチワルイ。
どないしたら消えるんやろ、コレ。
私が餌を詰め込んでる間、アレイストは斜め向かいと言う微妙な位置に座り、黙って自分の中に沈み込んでいた。
生気のない目で人が食べてるとこ見つめて。
……辛気くさ〜。
チョップくらいじゃ効かんかったか。
もういい加減済んだことは済んだこと、次どないするか考えぇって言うの。大体なぁ、こーゆー場合、暗ぁなんのはあたしの方やないの? せやのにアンタがそんななっとると、こっちが余計気ぃ遣うやん。
うっとうしいなぁ、もう。
『……何ではよ帰ってこれたん』
沈黙にしびれを切らして訊くと、パチリと瞬きをして、たった今目が覚めたみたいな顔でようやくちゃんと私を見た。
『……ああ…、予定を前倒し前倒しにして――早くミツキに会いたかったからね、』
弱々しく、笑う。
らしくない、らしくないにも程がある。
何であたしがされたことにあんたがそんなダメージ受けとんねん。あの野郎の思うツボやんか。
あたしは、あんな卑怯なやつのせいで自分が傷付くのも、アレイストが傷付くのも、我慢がならん。
だから、あえて、強がりを口にする。
『ちっとも会いたかったようには見えへんで。ユーウツそうな顔しよって、いつもならビタッとあたしにへばりついて撫でくり回しながらむず痒い気色悪いこと言いまくるくせに』
『……そうして、いいのかい』
『はー? 許可せんでもしとるやろ、何を今さら』
アレイストは少しためらったあと、静かに隣に移動し、そろりと私の様子を窺いながら手を伸ばしてくる。
そない畏まられたら、こっちもキンチョーするんですけどー。
そっと頭を撫でる、似て非なる、男の手。
スルリ、髪の先を滑り、羽が触れるように指先が頬を辿り、柔らかく腕の中に抱き込まれた。
そんな、壊れ物みたいに触れんでも。
アレイストとあれは違うて分かったから。
触られても、本当の意味でイヤやないて分かったから。