苦い謝罪
なんでアレイストが謝んの。
あれだけ注意されてたのに、まんまと騙されて、お守り盗られて、疲れてるアレイストに面倒かけて、
あたしのほうやろ? ――謝るのは。
「わかっていたのに、傍に居ないで危ない目に遇わせた」
あとでロルフにも謝まらな。
なんか、怪我しとったみたいやし。
「……守ると言ったのに」
助けてくれたやん。
かなり際どかったけど、蚊に咬まれたと思うとくわ。(んん? 刺す、か?)
「――すまない」
片手で額を押さえて、こちらを見ずに謝りつづけるアレイストが何故か頼りなく見えて、頭を撫でたいなんて、変な衝動が込み上げる。
私はゆっくりアレイストに近付いて、伸ばした手を―――振り下ろした。
ベシ。
頭を叩かれたアレイストはキョトンと瞬いたあと、ガクゼンと私を見上げる。
まだ気が治まらないのか、普段葡萄色をしている瞳は赤が濃い。その複雑な感情を表すかのように揺れて色を変える。
やっとこっちを見たアレイストに指を突きつけ、鼻息荒く私は言ってやった。
『ウジウジうっとおしい! 突っ込まれる前に間に合うたんやからセーフやろ、ピンチを助けたヒーローやで、くらい思て威張っとき!』
ポカンとしたアレイストが何か言う前に背を向けて、勢いよくバスルームへ。
『お風呂入ってくるしご飯用意しといて、ムカつく野郎に栄養吸いとられたからな、補給せな』
捨て台詞のように付け足して、ドアを閉めた。
謝るどころかケンカ売っとるよ、あたし。
やけど、あんなアレイストはイヤやもん。
もっと厚顔無恥で、王様で、セクハラで、私をからかって楽しそうにしてる方がいい。
ヤケクソ気味に、いつもはケチってる薔薇のオイルをたっぷり入れてお湯に沈んだ。