わるいゆめ
もやもやした怖い夢にうなされて、微睡みから目が覚めた。
一瞬自分が分からなくて、ひどく心もとない気分になる。
横になったまま視線を動かすと、窓から入る白い月明かりとベッドサイドの柔らかいオレンジのランプに照らされた、乙女チックな調度品が目に入り、城の自分の部屋だと理解する。
ベッドサイドの椅子に掛けられた黒いコート、それを見た途端、昼間のことが一気に記憶に蘇った。
――クリスト、フェルに、、ヤられかけて、血ィ、吸わ、れ、て、……、……アレイスト、来たよな?
せやから、あたし家に帰れとるんやんな? ギリギリ、助かったんやんな?
暴力の名残と、襲われかけたショックとで自分の身体がどうしようもなく震えて、止まらない。
薄暗い部屋に一人でいるのが怖かった。
一人が嫌だった。
いつ、暗闇からまた、あの手が伸びてきて、捕らえられるかと思ったら―――、
ぶるぶると頭を振って、イヤな思考を払い落とす。
……アレイストのあほー…、
いらんときはベタベタしとるくせに、なんでこういうときに居らへんのー。
目を擦りながらノロリ起き上がってルームシューズを履く。
誰かが着替えさせてくれたのか、パジャマ替わりにしてるフリースのスウェットを身に付けてることにそのとき初めて気付いた。
汗をびっしょりかいていて、気持ちが悪い。
触られた感覚が不意に蘇り、厭な気分になって、私は隣室に繋がるドアを開ける。
おフロ、おフロ。
一端こっち入らなバスルーム行けんて、広いくせになんでこんな面倒くさい造りになっとんのやろ。
ぶつくさ言いつつ、アレイストの書斎へ入る。
明かりがついてたから居るかなとは思った。
その予想通り、書斎にアレイストは居たけれど、――ソファの背に身を預け、休んでいた。
改めて目にした彼の姿に自分でもよく分からないまま安堵して、肩の力が抜ける。
戻るのは明日の予定だった。
今日、私が奴に捕まることが分かってたなんてことはないだろうから、たぶん、頑張って仕事を終わらせて帰ってきたんだろう。
そしたらマヌケに私は捕まってて。助けてくれるために、力をめちゃくちゃ使ったんだと思う。
四階の壁、外から破壊やで?
前みたいに反動で情緒不安定……にはならなくても、スッゴク疲れてるはず。
寝てるんかな、せやったら静かに風呂入らな。
と思ってソロリとバスルームの方へ足を向けた私を、小さな声が止めた。
「……ミツキ、」
目を閉じたままアレイストが、囁くように私の名前を呼んで。
ごめん、と呟いた。