救いの手と、破壊の手と


「……申し訳ありません……逃がしました」

図書室側の隠し扉から、ふらついたロルフが姿を現す。
額が割れて、赤い、水が、腕、どうしたん……、

「――狩人《カリビト》です……あの体技、間違いありません」

ロルフの報告に、アレイストは壁に磔になったままのクリストフェルを見返す。

「――あれほどまでに人間を蔑んでおきながら、狩人を配下に置く……、いい趣味だな? ムルデンの」

黒い霧に自由を奪われたまま、呼ばれたクリストフェルが忌々しげにアレイストを見た。
アレイストはボンヤリしている私を片腕に抱き直し、奴に視線を投げる。

「このままここで首を断ってやりたいところだが」

皮膚がヒリつくほどの怒りをその声音に感じた。

囚われているというのに、クリストフェルの表情はあくまでもふてぶてしい。

「そんなものをフラフラ放し飼いにしておく貴方が愚かなのですよ」
「――口を聞く赦しを与えた覚えはない」

嘲笑めいた色を瞳に写したクリストフェルに、アレイストが圧力を掛ける気配。
何かが砕ける鈍い音、クリストフェルが呻いてまた血を吐く。

アレイストは構わず、空いた片手で無造作にクリストフェルの体に向かって手を振り――四肢を一つずつ潰した。骨の折れる音に知らず身体がビクつく。と、あやすよう背を叩かれて、微妙にムッとする。

 子どもやあらへんでー!

クリストフェルが動けなくなるまで完全に手足を壊した彼は、いつの間にか周りを取り囲み控えていた配下の人々に静かに命じた。

「――帰るぞ」

罪人のように引き立てられるクリストフェルを目の端にとらえながら、私は、何か他に気になることがあったはずなんだけど、と、グラグラする頭を叱咤して、考える。
だけど、全て見透かしたようなアレイストの「あとでいい」という囁きと額へのキスに、それきり意識を手放した。


 あれが、私の対面している危機。
 油断していると、食われてしまう、そのことを重々理解した。



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