霞んだ視界が光に埋め尽くされる。

痛みを感じるほどの日の光。

なのにそれを背にして現れた人物は、正反対の闇を身に纏っていた。

外側から破壊した壁の端に手を掛けて。
何でもない動作で壊れたレンガを踏み、中へ入ってくる。その足元で、固いはずの石は角砂糖のように踏み崩された。

静かすぎる気配だというのに、息を飲むことすら赦さない威圧感に凍りついていたクリストフェルと私を瞳に写し――その瞳の色は誰より鮮やかな深い深い、赤色。

恐ろしいほどの冷静さのまま、彼は手を横凪ぎに払った。

闇色の霧が私にのし掛かっていた男を襲い、弾き飛ばし、反対側の壁に叩きつける。
鈍い音がして、クリストフェルは血を吐いた。

 ああ、肋骨でもヤられたか、どうせすぐ治るんやろ、ザマミロ、

と麻痺した思考のまま思っていた私は、抱き起こされて、瞬きの間に彼が来ていた黒いコートに包まれる。

――雨に濡れた、針葉樹の匂い。

いつの間にか当たり前に感じるようになっていたその香りに、身体中の力が抜けた。
抱き上げられて、髪に頬ずりされる。グッタリした私を抱える彼の腕がわずかに震えているのを感じた。

「……アレイスト、」

かすれた声で彼を呼ぶと、はぁっと息を吐いて強く私を抱き締めてくる。

 なんで?
 まだ帰るんには早いよな?
 何でここがわかったん?
 ごめん、忠告守れへんかって。
 てゆーか今、空に浮かんでへんかった? 浮かんでたよな?
 どんなビックリ人間なん、いや吸血鬼やったか、

「ミツキ。今は休んでいいよ」

埒もないことをぐるぐる考え続ける私に気付いたのか、耳に柔らかく囁きが落とされる。
途端、重くなるまぶた。

 ああ、でもまだあかん、伝えんと。
 アレイスト、ごめんなさい、アルジェインが、
 リーリィに……、
 

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