希望と
ぶんぶん首を振っても、闇に身を浸した男が満足するまで離してもらえなかった。
血を味合われただけだとわかってる。でも私にとってその行為は、好きな相手とするもので――、
一端自覚すると、素肌を撫で回されているという事実が例えようもなくおぞましく、触れられている自分の身体すら厭わしかった。
イヤ、イヤ、イヤ、
たすけて、
―――――、
その名前を。無意識に、呼んだ。
―ピリリリリ、まるで私の声に答えるように、暗闇の中、電子音が鳴り響く。
チカチカと、瞬くわずかな光。
ジーンズのポケットに入れていたはずの携帯が少し離れた床の上に転がっていた。
涙に濡れた目を激しく瞬かせる。
私に電話を掛けてくる相手なんて、数えるほどしかいない。アストリッド、ロルフ、稀に同じ授業を取っている留学生仲間。
そして、一番多いのが、
「ア……」
――アレイスト――
鳴り続ける音に舌打ちしたクリストフェルが身を起こし、片手に私を拘束したままそれを拾い上げる。着信名を見て、嘲るように緋色の瞳を歪ませた。
次の瞬間、バキリと鈍い音がして、まるで柔いもののように簡単に握り潰された機械の残骸が床にバラ撒かれる。
わずかに生まれた私の希望も粉々に砕くように。
「……よほど貴女に執心らしい。なのに何故まだ命約を交わしていないのかは理解不能ですが」
もがいて離せと暴れる私のうなじに唇を再び押しあて。きつく食まれる。
骨がきしむほどの力で抱擁を受け、小さく呻いた。
「――それ故、奪われた時の衝撃は大きいはずだ」
くつくつと笑いながら一人呟くクリストフェルから、冷ややかなアレイストへの敵意を感じて私は眉をひそめた。