暴虐
私を罠に嵌めたクリストフェルの目的が何かなんて分かりすぎるくらい分かってる。それを証明するかのように、服の裾から入り込んできた男の手が、素肌に直接触れ、ギュッと身体の芯が縮こまった。
……イヤだ……!
あるいは、強引に目的を遂げようとされたのなら、めちゃくちゃに暴れて抵抗できたのかもしれない。
もしくは、欲望のまま触れられたのなら。
だけど、私にのし掛かっている男からは一切の感情が感じられず、そのことが逆に私から逆らう力を奪っていた。
何を考えているのかわからない相手と対峙するのが、どうしようもなく恐ろしくて。
淡々と。
淡々と、肌をなぶる男の手、唇。
決められたことを決められた通りにしている、そうとしか思えない触れ方。
クリストフェルの前にいるのは【秋葉深月】という一人の人間じゃなく【イミューン】というただの道具、それだけ。人形のように扱われている。
アレイストにふざけて触られた時だって逆らうことができたのに。
――ううん、違う。
アレイストとこいつはハナから違う。全然、違う。
あたしがホンマにいややと思うことを、アレイストは絶対にしない。
ちゃんと、あたしの名前呼びよるもん……!
こんな、人を人とも思わん男に、良いようにされたない――!!
腕は後ろ手に拘束されていて、自由になるのは足だけ。といっても、しっかり上に乗られているから、身を捩ってもがくことしか出来ない。
だけど、諦めたりなんてしたくなかった。
急に暴れだした私に苛立たしげな舌打ちをし、クリストフェルが肩を押さえつける。砕けるかと思うような強さで。
ギシリと掴まれた場所が軋んだけれど、構わず首を動かし届く位置にあった奴の手を噛む。
一瞬緩む力、だけど私が彼の下から逃れようと身を起こすより早く、片頬に痛みが走った。
ぐらん、と頭を揺さぶられた衝撃の後で痺れるような熱が広がり、自分が殴られたことに気づく。
口の中が切れたのか、わずかに鉄の味。
サイッテエ。
眉をしかめて嫌な味のする唾を飲み込もうとして――生温い柔らかいものに唇を抉じ開けられた。
目を見開く。
ヌルリと口腔を這い回る、他人の――舌。
「――! っんんー! っ、」
厭、いやいやいや、
イヤ………!!
ボロリと今まで堪えていた涙が転がり落ちる。
負けたくなんか、ないのに。