“王”と“女神”


「むかしむかし――」

私の手を引いて奥へ進みながら、歌うようにリーリィが言葉を紡ぎだす。

「――とある国に、ヒトより遥かに優れた一族が在りました――」

鈴を振るような、涼やかな、心の内に響く声に私は引き込まれた。

「――彼らは命を支配する一族。
 命を操る一族。

 その一族の真なる王、
 一族の神たる王、
 ぬばたまの髪を持ち、
 夜明けの瞳を有す彼の王は、
 ある日一人の娘と出逢いました――」

陽の光を阻むほど高く聳える書棚の奥へ奥へ、私はロルフさえ見失う場所へ誘い込まれたことに気付かない。

小柄な友人の手が、私を闇の中へ誘う。

「――その出逢いは、

 永遠なる真の一族が黄昏る時代を告げる、

 幕開けとなったのです――」

リーリィの語るおとぎ話の断片が、私の思考を止まらせていた。

――“一族”。

――“王”。

――“ぬばたまの髪、夜明けの瞳の王”――、

「――それは、人間の娘を愛した夜の王と、その王の命を奪い女神となった愚かな娘の物語――…」


――“女神”。


「……リーリィ……?」

ブロンドが揺れて、こちらを振り返る瞳はアイスブルー。
冴え冴えとしたその瞳の色と同じように表情さえ凍らせて、彼女は呟くように私を見据えた。

「――本当に、何故女神はお前など選んだのか……」

白い、花のような手が私の胸を押す。
背中が書棚の隙間の壁に当たった、と感じたのもつかの間、ぐるりと天地が逆さまになったように暗闇が私を包んだ。



「――ご苦労」



密やかに耳に響く男の声と、身体を捕らえた腕に、私はまたも罠に嵌まったことを、悟った。


 

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