忍び寄る
アストリッドといい、ロルフといい……なんやねんーーー! スッキリせん、スッキリせんぞおぉぉッ!
アレイストに訊いたら教えてくれるん?
だけど私の中の冷静な部分が、訊けば後戻りできなくなると囁いている。
このまま、知らないふり、流されるままのふりでいるか。
突っ込んで、とことんアレイストの事情にはまりこむか。
……底無し沼に四方囲まれてる気分や……。
アレイストたちの秘密を知って、彼の保護下に置かれて、2ヶ月。
いけすかないヤツだった相手は、作られた彼じゃない、素のアレイストと話し、一緒の時間を過ごして、
“困ったヤツだけど嫌いではない”友人になった。
誰もが一目置く王子様は、世話がやけるし、情緒不安定やし、ほっとくと何するかわからん男で。
ヘタに何でもできるだけあって、どんなエライことでもあっさりやってしまいそうでコワイ。
見張ってんと。
ヤバイことしそうになりよったら、ド突いてでも止めたらな。
そう思っている時点で、自分が引き返せないところにいるのだと、私はまだ気付いていなかった。
―――それはまぎれもなく私の油断だった。
彼らがやって来て、数週間。
さんざん脅かされた割には拍子抜けするくらい何事もなく過ぎた数週間。
私はすっかり彼らの目的を忘れかけていた。
もともと、ソレは自分からかけ離れた危機だったから。
彼らだって、私を口説きに来たにしてはどうも熱意が感じられなかったし、本当に、上に言われて嫌々やって来たんだけどという態度がありありで。
アレイストは一切関わるなと言ったけれど、同じ場所で過ごすからにはどうしてもすれ違ったりする。
ときどきアスタやロルフとのお茶の時間に混じるハルさんとは結構話すようになっていたし、イヤミや脅しは言うけれど、根底はアレイスト側なボクちゃんは私に対してそういう気がないのが分かったので、いつの間にか警戒心が薄れていたのかもしれない。
もう一人。
アレイストが完全に敵視している彼がいたことを、私は忘れていたのだ――。