“アレイスト”と“王”
「エルンスト様は昔からアレックスに心酔しているんですよ」
「態度、あんなで、ですか?」
部屋に戻り、メイドさんからワゴンを受け取ったロルフがアフタヌーンセットを整えながら言った。
私はアレイストと顔を会わせたときの彼の態度を思い返し、首を捻る。
どう見てもケンカ売っとるようにしかみえへんかったで。
「まあ、その辺りは微妙なジレンマがあると言うか。少し前までアレックスは王として振る舞う気がなかったんで、エルンスト様はもどかしかったんでしょうね」
「今は、違う? アレイスト、王様やるの?」
いや、ここの一族の王様がどないなことするんかわからへんけどさ。
「それが一番手っ取り早いですからね。貴女を守るためには」
今まで逃げていたツケが回ってきたんですよ。開き直れば簡単なことだというのに。
そう涼しい顔でサラリと突き放すみたいなことを言う、ロルフ。
やっぱここの主従関係よくわからん。
「あたしのせい? アレイスト、やりたくないことしてる?」
ちょっと罪悪感を感じ、眉を下げた私に、ロルフは少し慌てて否定する。
「違いますよ。やらなければいけなかったことを、しているだけです。ミツキ様はキッカケというか、良い発奮材料になったというか」
んー。自分が誰かの枷になっているのかもしれないという状況は、勘弁してもらいたい。
もう少し突っ込んだところを聞いてみる。
「どうして、アレイストは王様イヤだったの?」
ロルフは少し考えたあと、ミツキ様にならいいか、と呟き、自分なりの見解ですけれどと前置きして話し出した。
「……王として見られること自体、嫌だったんじゃないですか。
“アレイスト”として生まれ、
“アレイスト”と名付けられ、
“アレイスト”として生きなければならない。
わかっていても、納得するのは別でしょう」
またここでも謎のフレーズ。
“アレイスト”?
その“アレイスト”は、私の知っているアレイストじゃないの?
でも、私の知ってるアレイストはアイツしかいないんだから、
「アレイストは――アレイストでしょう?」
眉をしかめながら言うと、満足そうにロルフは微笑む。
「そう言えるミツキ様だから、彼は貴女を傍にと望むのですよ」
いや、違うと思う、ソレ。
あいつは、側ですっとんきょうなことするあたしを見て楽しんでいるだけだ。
「アレイストは彼である限り、王だということから逃れられない。だから、俺も望みますよ。
貴女が我が主の傍に寄り添ってくれることを」
なんであたし。
イミューンやからか。ロルフまであの変態セクハラ吸血鬼の子どもを産めというのか。
「貴女と主の子に仕えるのも楽しそうですが。そんなことは付随物ですよ、一番大事なのは、アレイストの傍で、彼を彼として見ていてくれることなんです」
……そう言ってロルフは散々私を謎の海に放り込んで、肝心なことは教えてくれなかった。