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06


「地獄名山ですか?」
「登山者は多いですが、この山は違いますね。名山はここより西にあります。もう少し高い山ですね」
「ここからの眺めもいいんですけどね」

 登山の経験はないが、テレビなどで見る連なる山々の景色そのままだ。実に神々しい。

「ここに《宝》はありますか?」
「いいえ、気配はないですね」
「お、山小屋もあるみたいですね。行ってみましょうよ!」

 否定するかのように頭を振る常世さんを視線で追えば、背後に山小屋が見えた。こぢんまりとした見た目だが、距離があるからだろう。腕を引いて近づくと、茶色い羽をした小鳥が出迎えてくれた。山小屋はしっかりした作りで、それなりの大きさがあるようだ。やっぱり距離があったから小さく見えたらしい。

 ロッジの階段を上がりドアを開けるが、誰もいない。だが、埃臭くはないので、いまはたまたまいない時間なのかもしれない。

「誰もいませんね」
「ここまで登っていないだけでしょう」
「だといいですね」

 静かにドアを閉めて、背後に立っているであろう常世さんを振り返る。「帰りましょうか」と。

 目の前に広がったのは、常世さんの心配した顔。数秒だけだったし、なにをどう心配しているのかも解らないけれども、そんな顔をしてほしくないと思った。思ってしまった。

「そうですね、帰りましょう」

 差し出した手に重なる手は――思いの外、熱さを持っているのに気がついてしまった。その手の大きさにも。


 ◆◆◆


 四日目は森であった。鬱蒼と木々が茂る森のなかですよ。それでも日の光をたっぷり受けているようなので、陰鬱さなどは微塵もない。清々しさしかありません。

 相も変わらず手を繋いでいるが、ここではそれが安心材料となっていた。森で迷ったら終わりだからね。

「いやあ、空気がおいしいですね!」
「森林浴に来る者もいますからね」
「動物はいますかね?」
「小動物は多いはずですよ」
「またうさぎに会えたら嬉しいですねー。最大限愛でるつもりですよ〜」

 私も全ては解りませんがと続ける常世さんに対して、企むようにふふふと答える。言ったとおり、ふわふわうさぎに会えたら、最大限愛でてやるんだぜ。そう決意を新たにして足を進ませる。びょびょびょ〜んという甲高い鳥の鳴き声を聞きながら。気の抜けるような鳴き方だが、この森には必要なんだろう。

「とても歩きやすいですね」
「歩きやすくしていますから」

 あ、それはありがとうございますと答えると同時に、にこりと笑った常世さんの髪が風に靡いていく。舞う色香が凄まじい。いや、元々色香のおばけだったんですが、髪が舞うだけでこうも違うのか。いやいや、風呂上がりも水が滴るいい男でしたけれども。《宝》探しの体力温存のために、大浴場から上がればすぐに寝てしまっていたから、あまり長く会話はしていませんでしたがね。それでも、傾くなかれと己を律しておりましたよ。はい。

 おばけ怖いわあと心のなかで呟きつつ、柔らかな日差しに目を細めてぶらぶら歩く先、拓けた場所に出たようだ。草も花も咲き誇る、草原と花畑を一緒にしたという見た目。一面綿毛が舞っているのかと思ったが、よく見れば違うことが解った。その正体は、発光する球体だ。小さな小さな淡い光たち。黄、赤、緑、青、茶、黒、白といろんな色があり、風に揺られてあっちこっちにふよふよ浮かんでいる。とても幻想的だ。夜になればきっともっと美しくなるだろう。

「ここは……?」
「鎮めの森です。魂を鎮めるべき場所ですね。訪れた所全てに、このような場所はありますよ」
「地獄ですよね、ここ。鎮めるべき場所というよりは罪を償うべき場所ではないですかね?」
「あなたの知る地獄はそうでしょうが、ここは《地下獄園》――略して《地獄》ですから、また違いますね。魂が送られてくる世界はいくつもあるので、解りやすいようにひとつひとつ名をつけたようです。《地下》は最下層の意であり、《獄》は裁きの意、《園》は場所を表しています。つまり、ここは《最下層にあたる裁きを行うべき場所》ということです。ああ、裁きといっても、先ほど言ったように、魂を鎮めるだけですよ?」
「どんな感じに鎮めるんでしょうか? 目の前を見るに、風に乗ったり跳ねたり、好き勝手にふわふわ飛んでいるようなんですが……」

「そうですね。鎮めるというよりは、封じ込めていると言えるでしょうか。場所を確保して放り込んで終わりです。あとは長い長い年月をかけて有から無を作りあげていく。現世うつしよではない世界にしか出来ないことです。なぜそういう世界が出来たのかは、解らずじまいですがね」


「あー、まあ、それはそうですね。そこを考えると、こんがらがりますから」

 ふむと空いた片手を顎に添えた常世さんが漏らした言葉は当然のことだ。世界がどのようにして出来たのかなんて、考えた出したらキリがないし。それにしても、鎮めるといっても結構大雑把なんですね。

「常世さんの役割は、魂の監視ですか?」
「ええ、その考えで間違いないです。あとはこの世界に生を受けた者を安寧に導くことですね」
「立派ですね。私なんて、二股野郎なんか地獄に落ちろと願うような女なんですよ」
「願うのもしかたのない状況だったと思いますよ」

 まるでその場を見ていたような口振りだが、この人はなにを知っているのだろう。いや、魔法が存在する世界なのだから、別の世界を覗くのなんて容易い――のか? そう思った瞬間、目の前に現れた光景に目を丸める。どうしてだか、いま視界を埋めるのは常世さんのドアップだった。

 なんだこれと固まる私にさらに顔が近づいてくる。右耳辺りに触れるか触れないかまで迫ってきたあと、『――残念ながら、しばしのお別れですね』というイケボが鼓膜を刺激してきた。

本当に残念そうな、寂しそうな声に、なにかが・・・・一気に弾けていく。パキパキとかピキピキとか、ヒビが入ったような音がしたあとに。



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