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05


 ひとしきり撫でてから「ありがとうね」と解放すると、うさぎは「ぴゅっ」と短く鳴いてから、手の甲に鼻を押しつけてきた。常世さんの通訳を聞くに、どうやら「どういたしまして」と言っているらしい。礼儀正しいうさぎもいたものだ。さらばだ! と言うように元気よく走り出すうさぎを見送ると、常世さんの手が頭に伸びる。なぜか。

「私の頭は触り心地がよくないですよ?」
「良い悪いの話ではないですよ。ちょうどよい位置にあったのですから」
「はあ、そうですか。まあ、不快感はないので、いいんですけどね。満足するまでどうぞご自由に」

 あのうさぎはこの砂丘に生息しているのだとか、サボテンの名前はサッボーというのだとか、この世界は有から無を生み、無から有を生み出しているのだとか、頭を撫でられながらの言葉の数々に、ふむふむなるほどなるほどと頷くばかりだ。

 聞けば聞くほど、やっぱり私の知る地獄の様相ではない。それでも、この雰囲気は嫌いじゃないなあと思う。不思議と。

「帰りましょうか」
「はい」

 差し出された手に手を重ねると、常世さんは微笑んだ。なぜかとても嬉しげに。

 うん、なんの心の準備もしていなかったからか、ただただときめいたよね!


 ◆◆◆


 言われたとおりに、甘味ものの人気は世界どこでも共通のようでした。よもや瞬殺に近いなんて、誰が思うでしょうか。私と結さんの分は常世さん権限できちんとひとつづつ用意されていたのは嬉しかったです。結さんからもお礼を言われてしまったしね。「おいしいものは皆で食べるともっとおいしい」という考えに基づいた行動なので、お礼は必要ありませんが。瞬殺だけは恐ろしいんだけれども。

「常世さんは甘いものが苦手なんですか?」
「いえ、苦手ではないですよ」
「あ、違うんですか? サッボーのヨーグルトソース和えを食べていないので、てっきり苦手かと思いましたよ」

 鯛茶漬けならぬ鮭茶漬け、でもなく――まさかの梅茶漬けをぺろりと食べ終えたあと、甘味にも舌鼓を打つ。サッボーを一口サイズに切って、茶色のヨーグルトと和えたもの。色に関しては少々引くような見た目ではあるが、匂いはおいしそうな香りだ。どんな味がするのかと、ドキドキしながら口に含んだのは数秒前か。口内に広がったのは、メロンヨーグルトの味でした。酸味がいい塩梅となっていて、木匙が止まることはない。

 常世さんの返事にふむふむと頷くと、赤紫の瞳が愉快げに細められた。すごく色っぽいですね。やっぱりイケメンは強い。

「いまは食べている姿を見ている方が好きなので」
「へー、そうなんですか」

 確かに、おいしそうに食べる姿を見るのは気持ちいいからなあと納得していると、左横から「……姉様……」と嘆息が聞こえてくる。うん? どうしたというのかね?

「結さんは私になにか言いたいことがあると?」
「あー、いえ、姉様はにぶ……、いえ、姉様のままだなあと思いまして」
「にぶがなにを表しているのかはさっぱり解らないけど、私は私だよ?」

 それ以外のなにに見えるんですか、あはははと笑うと、結さんも「そうですね」と笑みをこぼす。「姉様は姉様なのだからかわいいんですよね」と続けて。

「いや、かわいいのは結さんですから!」

 はい、ごちそうさま! と、勢いよくトレーに小皿を戻して、返却口へ逃走を図る。「結の言うことは的確ですね」と紡ぐ常世さんから逃げたかったから。イケボやめて。朝から顔が熱くなるから!

 はてさて、朝のイケボ

口撃こうげきは彼方にやってから、やって来たのは川辺です。澄んだ水と空気の匂い、木々の爽やかな香りたちが風に乗って運ばれていく。



 一瞬で世界が変わるという移動手段はおかしい気もするが、ここは地獄という名の異世界なので、気にしてはならないのですよ。早く慣れなければなるまい。

 いまは川沿いをまったり歩いています。「ここも違うようですね」と宣ったので。手を繋ぎながらだからか少々緊張するが、川の水は綺麗だし、小鳥だってゆったり飛んでいるし、なかなかにいいのかもしれない。

「あ、魚が跳ねました! いまの見ましたか?」
「ええ、見ましたよ。あれはあぜですね。雪子さんの世界でいうと、鮎ですか」

 ほうほう、鮎がいるのか。なるほど。サボテンもあったし、うさぎもいたのだから、鮎がいてもなんの問題もあるまい。

「鮎なら食べられますねー」
「食べますか?」
「いいえ、遠慮しておきます。朝食をたっぷり食べてしまったので、入りませんからね」

 道衣の上からぽふぽふとお腹を叩くと、常世さんは苦笑した。「本当においしそうに食べていましたよね」と。

「では、また来ましょうか」
「いいですね! 約束ですよ?」

 ふふふと笑みをこぼした瞬間、目の前に映像が浮かぶ。なんの前触れもなく。楽しそうな顔をする常世さんの姿が。

「――雪子さん?」
「あっ、はいっ!」

 なんなんだろうかと考えていると、常世さんの声が耳に届いた。没頭はダメだろう。失礼だ。右隣に――川の方を歩く常世さんに視線を遣ると、柔らかな笑みをこぼす。

「どうかしましたか?」
「いえ、すみません。川が綺麗なので、見とれていました」
「そうですか。ですが、やはり外ですので長居は禁物です。冷えてはいけませんからね。もう少ししたら帰りましょう」
「はい」

 とっさの言いわけを疑う素振りがない常世さんは、案外優しい人なのかもしれないなあ。

 せせらぎの音を耳にしながら、私は今日も頭を撫でられていた。身長差はこうして利用されるようですよ。


 ◆◆◆


 三日目の《宝》探しは火山である。といっても、休火山らしい。ごろごろある岩や斜面に気をつけながら、火口付近まで登ります。まあ、火口からちょっと離れたところに転移したからか、移動に時間はかかっていませんが。あと、高山病もない。魔法便利。

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