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04


 ――ではなくて! ええい、ときめいてばかりいるんじゃない! 聞きたいことは聞かないとね!

「お付きの人は連れてこなくてよかったんですか?」
「ええ、邪魔ですから」
「ばっさりしてますね!」

 まさかのお邪魔虫発言をいただきました! まあ、本当の意味でのお邪魔虫というわけではなさそうだけれども。

 堅牢な門を抜けた先に広がるのは、やっぱり長閑な風景。王宮の周りということは、城下町なのかな? 人々の喋り声とともに木々が風に靡き、鳥が歌う。空気も澄んでいておいしい気がする。

「地獄は執念や怨念が渦巻いたおどろおどろしいところだと思っていましたが、美しいですよね」
「ここはただの一角にすぎませんよ」

 右隣から届く声に「そうなんですか? 恐ろしいのはちょっと無理なんですけれど」と投げかけていると、腕を引かれて一歩、いや、二、三歩踏み出していた。恐ろしいのはちょっと! 遠慮したいんですが! という心の叫びとは裏腹に、目の前が歪む。立ち眩みや世界が回るように感じる目眩に似たように、ぐんにょりと。

「あ……」

 あれ? ここはどこだ?

 辺りを見渡して解るが、広がるのは砂地。どこまでいっても砂地。いや、サボテンさんが等間隔にお目見えしているけれども、トゲのないサボテンである。つるつる。完全においしそうなメロンソーダかメロンゼリーだ。半透明な緑色をしているしね。

「砂漠ですよね、ここは」
「正しく言えば、砂漠ではなく砂丘ですね」

 ううん? 砂丘ということは、普通の道もあるということですか? そうだとするのならば、慌てる必要もないのか。

 と、いうわけで、もう一度ぐるりと辺りを見渡して深呼吸。うん、ここも空気がおいしい。新鮮だね。

「おいしそうなサボテンですよね」
「その感想は当たりですよ。食べられますから」

 こぼしたひとことに返るのは、常世さんの笑み――楽しそうな微笑みだった。女殺しと名づけてもいいですかね? これはおモテになるのも当然ですわ。

 殺られてたまるかと微笑みから視線を逸らし、サボテンに送る。ぷるぷるしていそうだなあと思いつつも、「食べられるのならば、ちょっとだけ食べてみたいです」と漏らすと、「行きましょうか」とすかさずエスコートされていく。女殺しは健在でしたか! 私は勝てません!

 おぉうと、悔しさいっぱいになってしまったがそれそれで、繋いでいる右手の代わりに、左手の人差し指でサボテン――私の背丈とほぼ同じ大きさだった――に触れると、弾力が伝わってきた。さすが見た目がゼリーだけのことはある。「おぉ! ぷるぷるは裏切らないそうですね!」と興奮ぎみに言うなか、甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。メロン色なのにいちご臭なのがまた混乱を誘うが、地獄の生態系はこういうものなのだろう。ちぐはぐしていると解ってしまえば驚きはない。ああ、いや、やっぱり少々混乱するかもしれませんね。未知との遭遇なわけなので。

「切りますね」
「お願いします」

 繋いでいた温もりが離れると、手のひらを上にしたように伸びる枝先――枝であっているのかは不明だが――の先端部を、どこからか出した短剣で少しばかりいただく。切り分けられた先、どちらからもじゅわりと液体が滲み、芳醇な匂いを辺りに撒き散らしていった。そう、いちごの匂いを。

「味はどうなんだろう?」

 液体を振って落とし、どこかに短剣を戻したあとに「どうぞ」と差し出されたサボテンを「ありがとうございます」と受け取るが、変なベタつきは一切ない。やっぱり不思議なものだ。

 いちごの匂いに誘われるようにサボテンを口に含むと――あら、びっくり、メロンの味がした。どうやら見た目と味が違わないものにあたったらしい。

「おいしいです!」
「お口に合っていてよかったです。ここには《宝》はないようなので、戻りましょうか」

 あっさり言って踵を返そうとする常世さんの裾を「待ってください!」と引くと、「どうかしましたか?」と首を傾げる。イケメンは首を傾げてもイケメンなんだなあと感心するが、違う。いまは感心している場合ではない。

「厚かましいお願いなんですが、サボテンを持って帰るわけにはいきませんか? 結さんにも食べさせてあげたいんです」
「そういうことなら大丈夫ですよ。では、少し離れてください。ああ、三歩ほどで構いません」

 快諾に気をよくして、言われるままに三歩ほど後退すると、常世さんはちょっといただいたサボテンに手のひらを向けた。かと思えば、淡いオレンジ色の光があふれていき、サボテンを包んでいく。そうして、瞬間的に姿が消えた。

 ああ、そうですか。魔法もあるんですね。さすが異世界。いやいや、魔法と呼ばれているのかは解りませんが!

「魔法、ですよね?」
「ええ、仰るとおりに魔法です。食堂の厨房に送りましたから、食事に出てくるはずですよ」
「大変ありがたいんですが、いきなりサボテンを送り込まれる方にもなったほうがいいですよ?」
「慣れているので問題はありません。甘いものは人気ですから、すぐになくなるはずなのでもうひとつ送りましょう」

 隣――といっても少々距離はあるが――に生えていたサボテンも送り込まれていく。ぷるりと揺れる姿がなんとなくかわいいなあと思った。しかし、普段からどれだけ送り込まれているのやら。いくら慣れているといっても、捌くのは捌くので大変そうである。

「あ!」

 消えたサボテンの先に白い物体が見えた。長いミミを持つ小動物が。逃がさないぜと俊敏に近づくけれども、白い物体が逃げることもない。鼻をひくつかせるだけだ。

「うさぎがいる……!」

 姿は子うさぎそのもの。小さくてかわいい。屈んで頭を撫でてやると、「ぴゅふぅん」と機嫌よさげに鳴いた。威嚇されないのならこっちのものですよね! とわしゃわしゃ撫でまくってやる。ふわふわ! ふっわふわ!

「満足しましたか?」
「はい。放置してすみませんでした」

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