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02


「え、マゾな人ですか?」
「その解釈はやめてください。時間も惜しいので、早くしましょう。さあ、どうぞ」

 ちょっと引きましたよと表すような私の言葉を尻目に、言い切って軽く目を閉じた閻魔様。周りは小さくどよめくが、主が決めたことに反対はしないようだ。忠誠心が高いのはいいことだね。

「――それでは失礼して」

 ふんっ! と腹に一発。「ぐっ!?」と噎せるような声が頭上から降ってきましたが、私はすっきりしました。尊い犠牲は忘れません。

 腹を撫でながらはあと短く息を吐いた閻魔様は、恨めしそうに呟いた。「……腹とはまた予想外ですよ……」と。

「綺麗な顔を殴りたくなかったんです。だからボディーにしました」
「そうですか。あなたが落ち着いたようならもうなんでもよいです。そろそろ名前を教えてくれませんか?」
「乙女雪子といいます。初対面で失礼でしょうが、あなたは本当に閻魔様なんでしょうか?」

「ええ、この世界を管理する者で間違いないですね。閻魔は管理職であるだけですので、「常世とこよ」と呼んでください。それが私の名ですので」


「ああ、はい。解りました」

 柔らかく笑うその顔を私はどこで見ただろうか・・・・・・・・・・・。そう思ったのはなぜだろうかと緩く首を傾げると、閻魔様――ではなく、常世さんは「あなたを喚んだ理由を話しましょう」と私の手を引いた。首を傾げたことを特に気にすることもなく。




 ◆◆◆


 地獄に舞い降りた天使とも表すに相応ふさわしいだろう美しい男に案内された場所は、王宮の一室。応接室とも呼ぶべきところである。日本茶――緑茶に似た味のお茶と落雁に似た砂糖菓子をいただきながら聞いた話曰く、《宝》を一緒に探してほしいらしい。影も形も解らないその《宝》を。地獄を管理するために必要なようだが、形が解らないのなら探しようがないと思いますが。



 そんな私の疑問は難なく言葉に乗るが、常世さんの返事にすぐさまおおわれる。「《宝》がどのようなものなのかは、近づけば解ります。閻魔には《宝》を感知する力があるので」という言葉によって。つまり、常世さんがいれば問題ないというわけか。



 そして――、元の世界に戻れると言われてしまえば、協力せざるを得ないだろう。よく出来た話と言われればそれまでであるが、私は嫌いではない。ちなみに、私が選ばれた理由が『暇そうだから』なのだけは解せませんわ。そんな理由で人を喚んだのですかと脱力しましたよ。暇そうなのは私だけではないと思いますが、イケメンに出逢えたのだから文句は心に留めておこう。

「解りました。私でよければ手伝います。その代わり、衣食住の保障をお願いします」
「ええ、それはもちろん。では雪子さん、改めてよろしくお願いいたしますね」

 イケメンボイスで下の名前を呼ばないで。しかもさんづけ。ちょっとときめいてしまったではないですか! よし、イケボは危険だと頭に入れておこう。これ以上ときめかないように。私はまだ傷心であるのだから。くそ野郎のせいで!

 思い出してぐぎぐぎ湧き上がった怒りは、「部屋を案内します」との声に弾けたのはよかった。一発殴るのはもうダメだからね。

 与えられた部屋はベッドに本棚、センターテーブルといった少ない数の家具が置かれた簡素といっても差し支えないほどだったけれども、なぜだか安心する。住んでいたアパートに似た広さだからだろう。大学近くにある学生アパートはワンルームにキッチンが備わったいわゆる1Kと呼ばれるタイプで二棟あり、きちんと男女別れていましたよ。難なく借りることが出来たのは、運がよかったんだろうな。センターテーブルの下に焦げ茶色の絨毯、もとい、虎のような生き物の毛皮が敷かれていたのには驚きましたが、思ったよりもふわふわふさふさだったのでまあいいかとなりましたよねー。

 ベッドの上でゴロンゴロン寝転がりながらこれからどうなるんだろうなと考えるが、なるようにしかならないかと結論を出した。不安がないのが大きかったのだろう。そう、なぜか不安がない・・・・・・・・

それに、どこか懐かしい感じがした・・・・・・・・・・・・のだ。まあ、懐かしい感じは生で竜宮城もどきを見られたからだろうけれどもね。絵本の世界が広がっていたら、わあ懐かしい! となるよねえ? しかしまさか、地獄に絵本の世界が広がっているとは思わない。いやあ、不思議なこともあるね。



 ひとり納得していればノックの音が聞こえてきた。起き上がって「開いてますよー」と答えると、すぐさまドアが開き、常世さんが顔を出す。おう、美しいですね。

「さっきぶりですね」
「ええ、困ったことがないかと思いまして」
「お忙しいなかありがとうございます。いまはまだ大丈夫ですね。この先は解りませんが」

 地獄の仕来たりなど全く解らないのでと続けると、常世さんは「仕来たりなど、あってないようなものですよ。ここは魂を鎮めるべき場所ですから」と笑みを浮かべた。ついで、「私も手が離せないこともあるので、雪子さんのお世話をする者を選んできました」と、背後を振り返り、小さな子を隣に立たせる。立たせるというのか、浮かんでおりますね。妖精とおぼしき女の子が。あ、羽はないから精霊の方ですかね? 袖の広い薄青色の道衣がなんともかわいらしい。

「お初にお目にかかります。むすびと申します。これから常世様と雪子様を繋ぐお手伝いをさせていただきますので、よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。それと、私に様は似合わないので、様以外で好きに呼んでください」

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