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01


閻魔様と地獄巡りな宝探しうええええい!


「――初めまして。閻魔羅闍えんまらじゃと申します」




 地獄に落ちろ――。そう強く思った結果、どうやら地獄に落ちたのは私の方だった。


 ◆◆◆


 どこの世界でも二股はある。いや、二股なんて可愛らしい呼び方はよそう。弄びなのだから。なにが言いたいのかというとですね、私は遊ばれていたのですよ。

 付き合っていたのは同じ大学で同じ学部の男。ついでに言えば、年も同じ。思い出したくもない元彼氏。あー、いや、うわべだけ彼氏? やあやあ、呼び方なんてどうでもいい! と、に、か、く! 私は遊ばれていた。

 それが解ったのはクリスマスイブ。忘れもしないクリスマスイブ。最悪なクリスマスイブ。

 意気込んで待ち合わせ三十分前に着いたのが悪かったのか、私は見つけてしまったのだ。恋人たちの聖地たるクリスマスツリーの前にいる仲睦まじいふたりの姿を。

 男はアレで、女はかわいいと有名なあの子。一瞬で解った。ああ、そうなのかと。私は必要のない人間なのかと。

 友人経由でのちほど解ったことだが、男はそれが高く、ほかの女に手を出すことで発散していた人であったのだ。知っていたのなら教えてほしかった。そう言って返ってきた言葉は、「恋は盲目。以上」である。確かに真理だ。恋に夢中になっているときほど、他人の言葉など聞きやしないね。本当にすみません。

 ひっそりとその場を去ったクリスマスイブの日、待ちぼうけでメッセージアプリから連絡をしてきた男に対し、私は「本命がいたんだ」と返した。男のメッセージは「なら終わりな。楽しめたんだからよかっただろ?」である。

 地獄に落ちろやくそ野郎! と思わずにいられなかった私の気持ちが解っていただけただろうか。

  乙女おとめ雪子ゆきこ、二十一歳。初めての彼氏に弄ばれました。貞操が無事なのがせめてもの救いだろうか。そう、せめてもの――。



 それからはくそ野郎を忘れるために過ごしていたわけですが、ひょんなことから地獄に落ちたのは私でしたわー。魔法陣っぽいのに包まれたのならば、異世界召喚だと思うでしょう? いや、地獄も異世界といえば異世界でしょうがね。あはははは。なんだかもうよく解らなくて、テンションを上げるしかない。ウェーイ! ウェーイ!! ってか。あは。あはははは。

 そんな心中を知る由もない穏やかな声音で「閻魔羅闍」と名乗った男は、続けざまに「あなたの名前はなんと仰るのでしょうか?」と問うてきた。「はは、なんだこれ」と、呟きにも似た乾いた笑いを上げるしかない姿を特段不審がることもなく、ぺたりと地面に座る格好となっていた私と視線を合わせるためか腰を屈めている。がしかし、残る身長差のお蔭か、上目遣いでしか対処できない。

 うんうん、赤色の道衣に似た服装がよく似合っていますね。目に痛くなるような真っ赤ではなく、落ち着いた赤色。明度と彩度を落としている渋い赤というのかな、こういうのは。

 男の後ろにいる数人の男たちは護衛かなにかであろう。手には槍が握られているしね。着ている服は男と同じようなものだが、色が違う。紺色だ。やはり身分の違いという明確な差がこの世界にもあるのだろう。などといろいろ考えているうちになんとか冷静さを取り戻したが、辺りを見渡すのにはぎこちなさが残る。いきなりの展開だし、そうなるのは私だけではないはずだ。ないはずだよね……? 少々不安になりながらも、ああ、なるほどと、納得するのは早かった。これもサブカルチャーに揉まれまくったお蔭だろう。ありがとうございます!

 目に映ったものは、町のなかというような風景だ。地獄なのに長閑という言葉が似合うような、そんな町。そして――竜宮城のような王宮も近かった。朱色が輝く中華然とした王宮。つまり、地獄は中華風異世界だったわけですね。解ります。いや、やっぱりさっぱり解りませんね!

「あの、聞いていますか?」
「オーケーオーケー、大丈夫です。現実逃避中ですから!」
「聞いていませんよね、それは」

 真顔で返ってきた言葉、すなわち、イケメンボイスでさらに冷静さを重ねられたようで、男、いや、閻魔羅闍様――うん、長いから閻魔様と呼ぼう。「さん」ではなく「様」なのは、おそらくはお偉いさんだからである――を観察する余裕が生まれる。男の言うことを鵜呑みにするのならば、閻魔様は地獄の長であるからして、下手な真似などできやしない。それでも眼福な美形だ。そしてイケメンボイスな長身痩躯。印象はそんなところか。

 短い黒髪はさらさらとした質感を持っており、触り心地がよさげだと思った。私の茶髪とは大違いなわけである。天然物ではあるのだが、手入れは手を抜いているのでさらさらではない。私は髪を命にはしていないので、髪を拭いたあとにコンディショナーを使うなんて面倒くさいとしか思えないのだ。世の中のしっかり女子は、自分自身にしっかり時間をかけているのだよ、男子諸君。おっと、私の話はどうでもいいのか。

 話を戻して――目の色は赤だが、忌避はない。それどころか、綺麗で困る。血のような赤ではなく、濃い赤紫色。赤ワインのような色だ。ワインレッドだっけ? 端正な顔も相まって、宝石のようだなあという感想しか浮かばない。閻魔様はまるでひとつの細工のようだ。人間離れをしている、とても美しい人。

 ああ、けれども――湧き上がるのは憎しみ。アイツではない違う人だというのに、一発ぶん殴りたい欲求が発生した。

「ああああー、殴りたいぃ!」
「ああ、あなたは騙されていたわけですからね。憎いのも解りますが、あの男と私は違う」
「解ります。解りますが、殴りたいです」

 気がすまないから。なにを言っているのか自分でもよく解らなくなってきてしまったが、閻魔様は目を二回瞬くと、「解りました」と小さく頷いた。「そうですね。あまり痛いのは勘弁願いたいのですが、あなたがあの男の幻影を砕くというのなら、喜んで殴られましょうか」とはにかむのも忘れない。

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