長編 | ナノ

 第064夜 たまの戯れ言



『…暇だ』


私は横延びの石柱に座り、ぽつりと呟いた。
今頃アレンはフォーとドンパチやっていることだろう。総合したらもう50時間を超えているのではないだろうか。戦っては休み、起きてはまた戦闘の繰り返しだ。
さてはて、一体今日で何日目だったか。ざっと1週間ぐらいではなかっただろうか。
どんなスパイラルが続こうと見守ってきた私だったが、先程、アレンに少しは休めと注意を受けて半ば無理やり追い出されたのだ。
疲れ切ったアレンの看病や身体を訛らせないための修行もあって、アレンよりも起きている時間はかなり長くなっていたのは事実だ。私自身、これは仕方のないことだと割り切っていたのだが、アレンはそうでもなかったらしい。どんな状況に置かれても他人への気配りを忘れないのは紳士として誇るべきところだろうが、今は自分のことだけを心配したほうがいいと思う。発動できない限りは戦場へも戻れないし、リナリー達と合流することすらできないのだから。


「フィーナ!」


そこで誰かに呼ばれて私は振り向く。いたのは例の3人だった。


『…あんた達って何処でも出現するよね』
「それはフィーナにも言えることなんじゃねェの?」
「確かに」
『まぁそれはそうだけど…。ていうか、仕事どうしたの。怒られるよ』
「私達今、お昼休みなの。フィーナが暇そうにしてるってバク支部長に聞いたから」
『あぁ、話し相手になりに来てくれたわけだ。暇だから助かった』


私は石柱からトンッと降り、その場に胡坐をかいて座る。
李佳とシィフも同じように、蝋花は正座をして座った。


「と言ってもそんなにベチャクチャ喋ることなんてないんだけどな。取りあえずコレ持ってきた」
『トランプ?』
「そう。暇つぶしにはいいかなぁって」
『なるほど…』


あまりにありきたりな手段に私は苦笑いする。
それを気にするでもなく、それとも気づいていないのか、李佳はカードを切り始める。


「でも何するの?色々あるけど…」
「そうだなぁ……ま、ババ抜きでいいんじゃね?」


王道だな。


「えぇー!でもすぐに終わっちゃうよ。大富豪とかは?」


豪勢だな。


「長期戦なら、神経衰弱はどう?」


地道だな。


我ながら文句しか出てこないことに多少虚しくなる。そもそも賭け事に関わるこういうことはあまり好きではないのだ。
だが3人は色々案を出し合い、結果的に多少の言い合いになる。
私はため息をつき、手を叩くことでそれをやめさせる。


『よし、じゃあポーカーしよう。お手軽、程よい時間、ルールも簡単。はい、異論は?』
「「「無し!」」」


ということでポーカーになった。これも英国で言ったら王道なのかもしれないが、ここは中国だし気にすることでもないか。
私達はそれぞれ1枚ずつ、カードをとっていく。


「それにしてもフィーナが1人なんて珍しい」
「そうだな。ここ1週間、ずっとウォーカーといただろ?」
『まぁね。でも少しは休めって追い出された。疲れてるって思われてみるみたい』


カードを取る作業が5ターンしたところで、端のシィフから順にカードを変えていく。


「でも実際はどうなの?あまり寝てないなら休んだ方が…」
『それがそんなに疲れてないの。寝る時は寝るから本当に大丈夫なのに…心配性だね、アレンも』
「でも、それだけ大事に思われてるってことなんじゃないの?」
「おーう、蝋花どうする?恋の強敵出現だぜ」
「な…っ」


蝋花は顔を真っ赤にし、あたふたとする。
私はそれに吹き出し、自分の番が回ってきたのでカードを2枚変える。


『蝋花にも言ったけどね、私とアレンはそういう訳じゃないの。仲間だから』
「あ…そうなの?」
『何。意外?』
「だって…なぁ?」
「うん。ずっと好きなのかと思ってた」


口々に言われる事実なのか。
私の何がアレンに惹かれているように見えるのか、ぜひとも聞いてみたいものだが。
少し深刻になりながら私は悪態をつく。
全員がまず一度、カードを取り終わったところで私は自分の手札を眺めつつ、次の手段を考える。


「でもさ、それじゃフィーナは誰が好きなの?」
『誰って…別に誰も』
「え、誰も?」
「うっそだー!まさか恋したことねェの!?」
『いや…ないことは無いけど…』
「誰?誰?」
「教えて、フィーナ!」


李佳と蝋花がズイッと顔を近づけてくる。ちょっと反応が大きすぎやしないだろうか。他人の恋愛事情とはここまで知りたがるものなのだろうか。
私は顔をひきつらせ、身を後ろに下げる。


『私のことなんてどうでもいいでしょ。そんな面白い恋したわけじゃないし…』
「でもすごく興味あるんだもん!」
「そうそう!フィーナってそういうイメージ全くないし」
『ひどい言われようだね』


そういえばズゥもやたらに人のことを知りたがっていたか。アジア支部の奴らは他人の恋愛話が大好きなようだ。
私は頭を掻き、うーん…と唸る。


『それじゃ、賭けようか』
「賭け?」
『そ。私に勝てたらそのこと教えてあげる。ただし私に負けたら3人には私の言うこと、何でも聞いてもらうよ』


金や物を賭けるのは嫌いだが、こういう条件なら悪くはない。3対1なのは少々不利だが。


「の、望むところだ!いいよな、蝋花、シィフ?」
「う、うん!」
「なんで僕まで…」


シィフはあまり乗り気ではないようだが、空気的にどうやら決まりらしい。


『じゃあシィフ、ベッティング2回目』
「分かったよ…」


シィフから順にカードを切り捨て、引いていく。蝋花と李佳はこれでもかというほど真剣な顔だ。よほど私に勝ちたいらしく、私がカードを引く時も私のことを凝視していた。
全員がカードを引き終えたところで私は3人の顔をぐるりと見渡し、そしてわずかに息を着いた。


『あんたら3人のうち1人でも私に勝ってたらそっちが勝利。逆だったら私の勝ちね。それじゃあオープンといこうか。そちらからどうぞ』
「僕スリーカード」
「わ、私フラッシュ!」
「はははっ!!オレはフルハウス!!」


李佳が叩きつけるようにカードを地面に置き、3人の手札の公開は終了した。
私はバッと身を乗り出し、目を見開く。


『強ッ!!あんたらどんだけ強いの!?』
「いやー…頭はそこそこだけど、運だけはいいんだよなー」
「ねー」
「僕まで一緒にしないでよ…」


何て奴らだ。ある意味運を味方に付けた人間は最強だ。
こいつらはあははは、と軽々しく笑っているが、どれだけそれがすごいことなのか全く自覚していないのだろう。運がこの聖戦上でどれだけ自分や仲間の命を左右することになるのかということが。


「さてッ!フィーナ、俺達の勝ちだ!話を聞かせてもらおうか!」


李佳がビシッと私を指さして言う。
私はその指先を無表情で見つめ、


『おいおい、舐めないでよ』


パシッと李佳の手を振り払い、私は自分の手札を地に叩きつけた。


「「「!!?」」」
『フォーカード。はい、私の勝ち』


私は腕を伸ばし、グイッと伸びをする。
3人は呆けた様子で私が出したカードを見つめている。手札を公開した時点で、まさか自分たちのカードが破られるとは思っていなかったのだろう。


『フォーカードから下はそれ以上の2つと比べて、出る確率が結構高くなる。あんたら表情に出すぎなんだよ。下手なカードじゃ勝負出来なかったから、最後のベットで大賭けした』
「…す、すごい」
「参りました…」


蝋花と李佳は両手を着き、うなだれる。よほど話が聞けなかったことがショックだったのだろうか。
だが条件は条件。飲んでもらわなくては困る。


『それじゃ、私の言うこと聞いてもらうよ』


私の冷ややかな笑みに3人は揃って後ずさる。
ここまで神経を使う勝負をしたのだ、それなりの代価を求めてもいいだろう。
私は3人に顔を近づけ、コソッと他には漏れぬようにその事柄を伝えた。



☆★☆



ただ今封印の扉の間の前。
中には戦闘をするフォーとアレン、そして仕事の合間に傍観しに来たらしいバクと連れのウォンがいる。タイミングが素晴らしくいいことに、珍しく運の良さを感じる。
私は後ろの石柱に腰掛け、ニコニコと部屋の前に立つ3人を眺めていた。
3人とも立ち姿は明らかに硬直しており、ゴクッと唾を飲んでいる。


『さぁ、3人共。どうぞー』


私の呼びかけに3人は意を決したようで、大きく息を吸った。



「フォーさんとぉッ!」



「支部長のぉッッ!!」





「「「ドドドドドドドドドドチビ――――ッッ!!!」」」





3人は豪快に部屋に向かって叫び終わること数秒、ダダダダダダッ!!と勢いが半端ではない音が聞こえてくる。
そしてその音源は私達の目の前までやってきた。扉の間からバクとフォーが目を鬼にして飛び出してきたのだ。


「貴様らぁ…」
「ケンカなら買ってやるよ…覚悟しやがれッ」


バクとフォーは殺気を奮い立たせながら、震えあがる3人に向かって突進する。


「きゃああああああ!!」


蝋花の悲鳴を合図として3人は逃げ始め、それをバクとフォーは待てぇ!!と追い続けていく。


『傑作だッ』


私は目の前で繰り広げられる鬼ごっこを見、手を叩いて爆笑する。
扉の間からアレンが出てきて状況を問いただされたが、笑いすぎてまともな会話にならなかった。
――まぁたまにはこういうのもいいでしょ。
まだまだ子供な私には、無邪気な遊び心も必要なのだ。こんな楽しい思いができるなら、多少の賭け事も悪くない。今日は少しポーカーに対する印象が変わった一日だった。





第064夜end…



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