長編 | ナノ

 第063夜 確かめ



私はヒョコッと扉の隙間から顔を出す。
すると中からかなり派手な戦闘音が聞こえてきた。アレンとフォーが激闘を続けているのだ。
恐らく私が立ち去ってから十数時間、ずっとやっていたのだろう。あまり体を休めないやり方は本当にどうかと思うのだが。あとでちゃんと言ってやらねば。
――…あぁ、そうだ。
私は手に持っているかごの中の料理を思い出す。これを持ってアレンと仲直りするのだった。
顔を合わせるなり説教するとまた面倒なことになるからやめておこう。
私はカゴを落とさないように気をつけながら扉をあけ、中に入る。
すぐ数メートル先ではフォーが容赦なくアレンに鎌の手を振り回している。


『やっぱり危ないな…』


止めたくなるが、何とかその衝動を抑え込む。出て行けば2人に文句を言われるのがオチだから、このまま大人しく見守ることにしよう。
私はカゴを置き、柱の一つにもたれかかる。
昨日の時のように隠れていたほうがいいとも思ったが、あの2人の戦闘はかなり危険だ。
目を使っていない状態で部屋にいたりなどしたら確実に私が危ない。何より料理が。
堂々と座っていていいだろう。何にしろ戦闘に集中しすぎて2人は全くこちらに気づいていないわけなのだから。


『…ん?』


私はすぐ脇で何かの気配を感じ取る。コソコソと動いているかすかな物音も聞こえる。


『…誰か、いるな』


私は近くに落ちていた棒きれを拾う。
物音からして2、3人というところか。とばっちりを避けるためにも今は邪魔をさせるわけにはいかない。
私は一つ一つの柱を慎重に辿っていくと、気配はある柱に行きついた。
――ここか。
私は柱の裏に回り、バッと気配の主達の首に棒を回し、引き寄せる。


『はい、確保』
「「「!!」」」


いたのはやはり3名だった。
白衣を着たそいつらは全員アレンの方を向いており、私の襲撃は不意打ちだったらしい。
冷や汗を流しながら固まるその3つの背中には見覚えがある。


『あんたら、まさか…』
「ははは、やっぱり…」
「見つかったね」
「ごめんなさい!フィーナさん」


振り向く3つの顔は案の定、李佳、シィフ、蝋花のものだった。
私は深くため息をつき、棒きれを捨てる。


『ったく、あんたらは…。立ち入り禁止の場に何の用?』
「すいません。フィーナさん」
『敬語は外していいよ。名前も呼び捨てでいい』


私はしゃがんで3人と同じ目線になる。


『ここは危ないよ。戦闘向きでない人間が来るところじゃない』
「悪い!でも蝋花がどうしてもウォーカーが見たいって…」
「李佳!?」
『あ、そうなんだ…』
「ち、違うの!!」


否定しつつも蝋花は顔を真っ赤に染めている。
そういえば先程アレンにストライクをかまされていたか。どうやら本当に惚れてしまったらしい。


『じゃ、ここで見てるといいよ』
「え…?」
『ただし見つからないようにね。そこらじゅうにゴーレム飛んでるから』


その辺に飛んでいるゴーレムの映像は皆、バク達のいるモニタールームに映し出されているらしい。見つかれば大目玉を食らうだろうから気を付けてやらねば。
私はゴーレムの注意がこちらに向かないように知らん顔でその場に座る。持ってきたカゴをちゃんと自分のわきに置いて。
3人はアレン達の戦闘の静かな観戦を始めるが、ふと蝋花が話しかけてくる。


「ねぇ、フィーナさん」
『だから呼び捨てでいいって。何?』
「…フィーナ。フィーナはいないの?す、好きな人とか…」
『え、私?』


蝋花がコクコクと頷く。
何だか今日は恋についてよく聞かれる日だなと思う。アジア支部はいつもこんな感じなのだろうか。


『何でそんなこと聞くの?どうでもいいでしょ』
「え!?そ、それは…」
『うん?』
「別に深い意味はないの!ただ…ウォ、ウォーカーさんのこと、フィーナがどう思ってるのかなぁって…」
『………』


私はしばらくポカンとする。
目の前には蝋花の真剣な顔。まさに本気の本気で質問しているといった顔だ。
だがその表情を見ていたら何だか急に可笑しく思えてきた。


『ふ…ふふっ』
「な、なんで笑うの!?」
『あぁ…ご、ごめん。だって…ふふっ』


赤面する蝋花には申し訳ないが、笑いが止まらない。
つまり蝋花は私が恋のライバルになるかどうかを確かめたいわけだ。
私はこみあげてくる笑いを無理やり飲み込む。


『アレンかぁ…うん、いい奴だよね』
「え?」
『いつも自分のことは二の次で私達のこと考えてくれるし、いつも守ってくれる。あんなに優しい奴、他にいないと思う』


私は小さく笑いを浮かべる。
本当に、どんな時でも私のことを守ってくれた。いつだって、そばにいてくれた。


「じゃ、じゃあまさか…」
『うん。好きだよ、アレンのこと』
「!!!」


私の言葉を聞いた途端、蝋花は石像のように固まった。
冷淡とした態度で接してきた私がこんな言葉を吐くことが信じられなかったのだろうか。
蝋花の今の様子が本当に面白いが、これ以上はかわいそうだからやめてあげようか。


『でもね蝋花。私がアレンを好きなのは仲間としてってこと』
「仲間と…して?」
『そう。蝋花が心配するような感情は持ってない』
「じ、じゃあ…ウォーカーさんのこと、恋愛対象とかそう言う目では…」
『うん。まったく無い』


私は涼しい顔で言いきった。
私がアレンのことを?想像しただけで笑える。何だそれは。この地球がどんなことになろうとそれは絶対にありえないだろう。私がアレンを大切に思うのも、アレンが私を大切に思ってくれているのも全部仲間としてのことなのだから。


「おい、2人共さっきから何こそこそ話してんだよ?」


アレンとフォーの戦闘に今までずっと釘付けだった李佳が声をかけてきた。


『別に何でもないよ。蝋花の恋の相談に乗ってただけ』
「あぁ、なるほど」
「本当に好きなんだね」
「ち…違うんだって、もう!」


3人のやり取りを私は笑いながら傍観する。
3人それぞれ性格の系統は違っても年が近いからだろうか、気が合うようだ。


『科学者、か…』


私は言い合っている3人を見ながら、ぽつりと呟く。
そういえば昔、憧れた時期があっただろうか。自分の興味や疑問を探求出来るその仕事を、羨んだ時期があったような気がする。羨ましかった。現に、今だって…
だが、それは必然的に夢で終わる夢だったのだ。私が使徒である時点でそれは実現不可能なことだった。いや、それ以前に私は…


「フィーナ!!」


そこで蝋花に呼ばれ、私はハッと我に返る。
見てみると3人が向こうの方を見て硬直していた。


『どうした?』
「く、首!ウォーカーの…!」


私はアレンの方を見る。
驚きの出来事が終わってしまったようでよくわからないが、どうやらフォーの手の鎌がアレンの首を切り裂いたらしい。だが、


『大丈夫だよ』


今まで話に耳を傾けていたが、アレン達へ向ける注意は一切それていなかった。首を切るような殺気が立てば空間を伝ってすぐさま身体がざわついたはずだ。あれは、切れていない。
フォー曰く、眠くて実体化ができなくなったらしい。一時眠り、フォーが目覚め次第また再開、と。
フォーは再び大あくびをしながら門の中へと帰って行った。


『………自由な奴だな』


私が言えることでもないが。
私は立ち上がり、アレンの元へと行く。
そこで数メートル先に立つアレンの身体がフラッ…とバランスを崩した。
――ヤバッ…


『い…っよっと!』


私は走り、くず折れるアレンの身体をギリギリで受け止める。自分より大きなアレンの身体を支えるのは難しいため、すぐにその場に寝かせた。
何処かをやられていないかすばやく確認するが、目立った外傷はない。どうやら疲労からくるものらしい。


「フィ…ナ…?」


アレンは重そうに瞼を開ける。十数時間もの戦闘はそれほど辛かったのだろう。
私は息を吐き、小さく笑う。


『いつも無理しすぎなんだよ、アレンは』
「すいません…さっきも…」
『気にしてない。私もごめん』


あっさりだったが、仲直り出来てよかった。
謝れたことに素直に喜びを感じつつ、私は右手でアレンの両目を覆う。


『眠っていいよ。疲れたでしょ』
「…はい」


アレンは特に躊躇う様子もなく突然の闇を素直に受け入れた。
それからすぐにアレンの寝息が聞こえてきた。
私はアレンの顔から手をどけ、その寝顔を見る。


『子供みたい…』


まさに遊び疲れた子供のようだ。起きた頃には腹が減っているだろうからズゥの料理でも食べさせてやろう。
私はアレンの腕を肩に回して、立ち上がる。


「ウォーカーさん!」
『え……ちょっと!ダメだって!』


蝋花はアレンが倒れたのを見てか、こちらへ駆け寄ってきた。


「あれ…?」
『大丈夫。疲れて寝てるだけだから。それよりも…』



≪ゴラ―――――!!≫



「ひゃっ…!」
『あーあ…』


案の定バクの怒鳴り声が飛んでいたゴーレムから響く。蝋花が堂々と出てきてしまったせいで、3人がここにいるのがばれたのだ。


≪貴様ら!!そこは立ち入り禁止だと言っただろうが!何してる!!≫
「す…すいませーん」
『別に邪魔はしなかった。そんなに怒らなくてもいいでしょ』
≪キ、キミは知ってたのか、フィーナ!だったらすぐに立ち去らせてくれればよかっただろう!≫
『勉強熱心な奴や恋する女の子は嫌いじゃないんでね。あまり叫ぶと血圧上がるよ』
「僕はまだ29だ!!」
『はいはい、意外に年いってるのね』


背後からギャーギャーと騒ぎ立てるバクの声を聞き流しながら、私は李佳とシィフに助けを求め、アレンを運ぶのを手伝ってもらう。
蝋花にはズゥの手料理の入ったカゴを運んでもらう。


「そういえばフィーナ、武器どうしたんだ?」
『あぁ、改良してもらうことになった。しばらくお預かり』


改良を見守るためにもまた今度ズゥの所へ行ってみるか。
いや、その前にアレンを発動させる手助けをしなくては。あまり無理させると身体を壊しかねない。誰のためにもまずはアレンのことを優先に行動しなければならない。





第63夜end…



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