長編 | ナノ

 第???夜 讐を糧とし、@


アレンから話を聞く限り、伯爵は自らの力で戦うことはしないのだそうだ。アクマを呼び寄せ、その力で戦うやり方だから戦力外と考えていいだろう。
問題はノアであるティキ・ミックだ。どんな手段で戦ってくるか分からない。いくらイノセンスがあるとはいえ、気を張って闘わなければ死ぬだろう。
私は目を鋭くさせ、集中力を高める。


『…来るなら来い。お前らなんて怖くない』
「やる気満々だな…。だけどさクッキー少女。お前大事なこと忘れてない?」
『何のこと?』
「何って…少年のこと」
『!!』


私は鋭くしていた目を大きく見開く。
ティキの言う少年はアレンのことだ。まさかアレンに会ったのか。


『…アレンに何をした』
「あはは…直接見たらいいよ」


ティキは竹林の向こうを指差す。
罠かもしれないが、アレンがここにいることを知っているということは確実にティキはアレンと接触しているはずだ。今まで何人もエクソシストを殺しているような奴が弱ったアレンを見逃すはずがない。
――アレン…
私は数歩下がり、隙が出来ないように注意を払いながらティキの指さす方を見る。


『…っ!!』


少し遠くだが、誰かが倒れている。ここからでは顔が見えないため誰だか分からないが、黒い服が月に照らされて辛うじて見える。アレは教団の団服。
では倒れているのは…


『アレンッ!!』


私は伯爵とティキに背中を見せるのも構わずにアレンの元へ走る。
私はそれどころではなくて全く気にも留めなかったが、2人は幸い攻撃は仕掛けてこなかった。


『…ウソ…っ』


私は地に倒れているアレン姿を見て絶句する。
アレンは仰向けに倒れていた。アレンの対アクマ武器が、左腕がない。イノセンスがなくなっている。
――何故…
私はしゃがみこんでアレンを揺する。


『アレン…っ!アレン、分かる?』


だがいくら揺すっても反応がない。目は開いているが、ボーっとしているような感じだ。ぴくりとも動かない。明らかに生気がない。


『アレン!アレン!?ねぇ死んでないよね、アレン!!』


私はアレンを揺すり続ける。


『起きてよ!冗談はやめて、ねぇ!起きて、アレンッお願いだから…』


反応がなくても私は揺するのをやめない。止めたら何かが私を覆うような気がするのだ。
アレンが死ぬはずない。歩き続けることを望んだアレンが、簡単に死ぬはずない。絶対に死ぬことはないのだ。
――それ…なのに…




『アレン………何でずっと、動かないの……』




私はやっと揺するのを止め、アレンの右手を握り、その身体に額を埋める。
言葉ではずっと否定している。だが、頭の中ではもう十分過ぎるくらいに分かっている。私が触れるアレンの右手が、脈打っていないと。その手はひんやりと冷たくなっていると。
全部…全部、分かっている。何人という死者をこの目で見てきたのだから。そう、今のアレンのような目をしていた死者を。


『何故なの…っアレン!』


口を動かすことがないアレンに私は叫ぶ。


『アレン、何故…っどうして!!頑張るって、言ったじゃん!1人じゃないって言ってくれたじゃん…!なのに、どうして…っ』
「オレが殺したからさ」
『!!』
「そこにバラバラになったスーマンも転がってるだろ」


気づけばティキと伯爵が私のすぐ隣にいた。
私は顔を上げ、ゆっくりと振り返る。
そこには原型が何かすらも分からない何かの塊があった。
だがティキの言葉と残った部位ですぐに察しはついた。これは、人の身体だ。


『…っスーマン!!』


スーマンのその姿は見るも無残だった。上半身が吹っ飛び、バラバラになっていた。


『お前……ッ!!』


私は自分の中から何かが沸々と沸き上がってくるのを感じ取る。
それは…とても熱い。そして、とても冷たい物。


「…貴女は教団に復讐するために、エクソシストを殺すために教団に入ったんですよネ?だったら…」


伯爵は私のすぐ目の前に立つ。


「だったらエクソシストが死んデ、何故泣いているのですカ?」
『…っ』
「貴女にとってはくだらない世界なんでしょウ?」


私は恐る恐る自分の頬に手を伸ばす。
手が、頬の何かに触れた。
ゆっくり離して見ると、それは多少の泥が混じった透明な液体だった。私の目から、零れたものだった。


「そんなに悲しいなラ、アレン・ウォーカーを蘇らせてあげてもいいですヨ
『…!!黙れえぇええぇぇ!!』


私は一瞬で双燐を5本に分裂させ、全て伯爵に向かって投げる。
伯爵は傘を差して宙に浮き、全てをかわした。
伯爵はおかしそうにギャハハハハと笑いながら着地する。


「あなたもこうなりたいですカ?アレンウォーカーのように殺されたいですカ?」
『伯爵…っ』
「もう一度言いまス、我輩と共に来なさイ。あなたを苦しめる全てを取り払ってあげましょウ


今度は伯爵が私に手を差し出してきた。これが最後ということだろう。これを断ったら、私に残された道はもう死しかない、と。


『………』


私は黙ってアレンを見る。
アレンは相変わらず動かない。もう、死んでいる。
――アレン…
私はアレンの右手を強く握る。握り返してくれないことはもう分かっている。だから私はそれを取り払うように力強く握り締めた。
握りしめ、震える唇を何とか開く。


『守れなくてごめん。私が…私が守るって言ったのに…っ守り切れなくて…助けられなくて、ごめん…アレン…っ』


私は溢れる涙を隠そうともせず、ただアレンの手にしがみついた。


また、守れなかった。また、死なせてしまった。私が守ると言ったのに。アレンは信じてくれたのに…
アレンはいつも、守ってくれてたのに…


『アレン、本当…ごめん……』


赦してくれる返事ももうない。笑ってくれる笑顔ももうない。全部、なくなってしまった。


「さあ、そろそろ答えを。フィーナ・アルノルト」


手を差し出したままの伯爵が声をかけてくる。
伯爵側に付くか、それともノアと戦うか。


『………』


私はうつむいた顔をゆっくり上げる。
アレンの顔を見、開かれたままの瞳をそっと閉じた。
アレンはたくさん守ってくれた。いつも守られてばかりだった。私が守れたのはほんの少しだった。それでも、そばにいてくれた。
優しかったから、その優しさが嬉しかった。冷え切った私の心を溶かしてくれた気がして。
たった数カ月だったけど、一番心を許せる人だった。


『…アレン…バイバイ……』


私はずっと握り締めていたアレンの手を離す。もうお別れ。ここでサヨナラだ。
私は団服の袖で目に溜まる涙と頬に伝うそれを拭う。
そしてバッと立ち上がった。


『…おい、そこのビン底』
「!」


私は振り返ることなくグッと拳を握る。
自分でも分かるくらいの殺意が溢れてくるのが分かる。
アレンは、死んだ。今の私にもう守るものはない。失うものはない。だから、何も怖くない。


『お前は私が殺す』
「…ってことは…?」
『お前らの仲間になんてなるものか。私は…自分の道を行く』


誰にも縛られることのない、自分の道を…――


「そうですカ残念でス


後ろで一つの気配が消えたのが分かった。伯爵がいなくなったのだろう。ティキに全て任せるということか。


「2人きりになったな」
『構わない。元々倒すのはお前だから』


私は一度双燐の発動を解く。次への発動準備だ。
そこで背後に草が跳ねる音がした。ティキがこちらへと歩み寄っているのだろう。


『…アレンとスーマンのイノセンス、どうした』
「ん?あぁ、少年のはオレが腕ごと壊した。だけどスーマンのは金色のゴーレムに持っていかれた」
『…そう』


金のゴーレムとはティムのことだ。腕を壊されたアレンはスーマンのイノセンスだけでも守ろうとしたのだろう。自分がもう使徒でないことを悟っても、エクソシストであり続けたのだ。


「さて、なるべく苦しまないように逝かせてやるよ」
『手加減はいい。アレンは十分苦しんだだろうから』
「お、まさか殺られる気?」
『………』


私はフッと笑う。
すぐ後ろにティキが立った。


「ま、どのみちこうなるんだけどね」


そう言った瞬間、ティキが後ろで身を引いたのが分かった。何かをしようとする一瞬の構えだろう。人が動作をするには必ずわずかな勢いを付ける動きが存在する。だが、



ダンッ!!



「!?」


私は身構えるその一瞬で地を蹴り、ティキの真上をバック宙で通りこす。
遅い。そして鈍い。それは見破れば大きな隙となり、敵側へのチャンスとなる。


『そろそろ、かな…』


私は双燐を握り締める。
いくら私の方がスピードが勝っているといっても、コイツはノア。何か能力があるのは違いなく、力を抜いて勝てる相手ではない。


『ごめん、アレン』


イノセンスを全開放する道しか私には残されていない。
アレンは止めてくれた。色々理屈は言っていたが、一番の理由は私のことを考えてくれていたから。アレンは優しいから、私まで危険にさらしたくはなかったのだろう。


――フィーナは装備型で肉体的にイノセンスとつながってません。
僕よりもフィーナがやる方が明らかに危険なんです――


『………』


危険でも何でも、アレンの方がよほど辛かったではないか。腕を折られ、左腕は全開放したせいで戦えなくなり、最後にはイノセンスを壊され、命までも奪われた…。どれだけ苦しく、あいつに殺されてどれだけ痛かったか。
アレンは自分を犠牲にし過ぎたのだ。
ティキは少し驚いた様子で、にこちらに振り向いた。


「油断したぜ。お前かなり速ェのな」
『だから手加減はいらないって言ったんだ。本気で来い』
「じゃ、遠慮なく行くぜ」


ティキは私の方へと走ってくる。
さすがノアというところか、その身体能力は半端じゃないようだ。かなりの速さで私に向かってきている。
だが私はうつむき加減に笑みを浮かべた。月明かりから外された私の顔の半分が、黒く染まる。


『…ただし、何倍も凶刃化した双燐と戦ってもらうけどね』
「何…?」


身体などもうどうなってもいい。アレンは命まで失ったのだから。ノアだからと言ってこいつを恐れる理由など何もない。
復讐心を糧に私は今まで生きてきた。それがあれば…怖くない。
私は双燐をティキへと向けた。


『…いくよ、双燐』


私は双燐を通常形態に戻す。
短剣2本の、本来の形態に。


『イノセンス…発動最大限開放!!』
「……っ!!」


私は双燐を発動する。2本の双燐からアレンの時のように、大きな光が発せられた。
それに驚いたのか、ティキは私から飛び退く。
自分でも、双燐の力がどれほど膨れ上がっているかが分かる。
最大限の発動の世界は恐ろしくもあり、興味深い世界でもあった。臨界者でないものがそれをすることを愚かに思っていた私が、こんなことをするなど夢のも思わなかった。


『…青嵐牙。しばらく空で見てて』


私は背中から青嵐牙を取り出し、空へと放った。さすがにあれを持っていては戦闘の支障になる。スピードを重視した争いになるはずだから、出来るだけ余分な負荷は避けたいのだ。これで一気にいけるようになった。
――…だけど、強制開放は長くはもたない。
どんどん肉体を酷使していくだろう。出来るだけ時間を稼ぐために分裂能力は使わないでおく。
早々にけりをつけなければならない。しかも確実に…。





第??夜end…



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