長編 | ナノ

 第054夜 rend Allen's heart



――…まずい。
周りの崩壊が一気に早まった。早くしなければスーマンの身体がもたない。長々とスーマンを引っ張り出している時間はなさそうだ。


『アレン、私がイノセンスとスーマンを切り離す。発動解いていいよ』
「何言ってるんですか。フィーナ一人じゃ無理ですよ!」
『無理でも何でもやるしかない。今のアレンがイノセンスを使うのは危険すぎる』
「僕のことはいいんです。それよりスーマンを…」
『よくないから』


私は低く言い、双燐を切っ先をアレンに向ける。


『自分が何言ってるか分かってる?一生発動出来なくなったらどうするの。それに下手したら命まで取られるかもしれない』
「それはフィーナだって一緒じゃないですか!」
『私はアレンよりもまだダメージが少ない。もしかしたら耐えきれるかもしれない』
「でも…耐えきれないかもしれない」
『………』
「それにフィーナにはスーマンを引っ張り出す手段がないじゃないですか。切り離しても脱出させられなかったらアウトなんですよ?」
『だったらアレンはどうするって言うの』
「手を噛んでもらいます。それしかないでしょ」
『そんなことしたら本当に手が…!』
「それでスーマンが助かるのなら構わない」


何て奴だ、と私は思う。自らの身体すらも厭わないとは。
だがアレンは本気だ。イノセンスを全開放すると言った時と全く同じ表情なのだから。私が止めても聞くはずがない。


「今度ばかりは僕1人じゃキツイ。だからフィーナの力も借りたいんです。イノセンスとスーマンを切り離す作業、手伝ってほしいんです」


出来れば巻き込みたくないという風だ。出来ることなら遠くまで避難していてほしい、と。
だが少しでも頼ってくれたことが嬉しい。全てを背負い込まずに力を求めてくれたことが嬉しかった。


『………分かった』


だから、承諾した。私を少しでも必要としてくれたのなら、それに必ず応えよう。誰かのために在るべき力として今まで信じてきたのだから。


『絶対に守るから。約束通り』
「はい。限界まで無理はしないでくださいね」
『極力努力はさせてもらうよ』


私とアレンは一度視線を合わせ、笑った。


『スーマン・ダーク。これからアレンと私のイノセンスであんたの右腕のイノセンスを切り離す』


私は双燐を抜き、発動した。


「その時あなたを引っ張り出しますが、僕の右手は折れてて力が入らない。噛んでください。絶対に離さないで!!」


アレンの右手はスーマンに噛み砕かれ折れている。本当なら私よりも重い役を任せるべきではない。
だが、スーマンを引っ張り出す力は私にはない。小さな子供を引きずり出す力すら無かったのだから。私は自分に出来る限りのことをし、アレンの負担を少しでも減らすしかない。


「アレン…ウォーカー、フィーナ・アルノルト……」


全てはスーマンを助け出すためなのだ。アレンのように全てを投げ出す覚悟でやらなければ。
私は大きく深呼吸し、意を決する。



ドッ!!



アレンの左腕と同時に私は双燐をスーマンの入っている穴の中へと入れる。
私は穴に入れた刃の部分を長くし、スーマンのイノセンスへと伸ばす。
双燐は巨大化させればその重さが体中にかかるが、それは持ち上げていたらの話だ。上から突き刺そうとしている今の状態だったら上から操ればいいだけだ。
私はどんどん双燐を伸ばしていく。
すると固い何かに行きついたかのような手応えがあった。


『…うっ…あぁああ!!』


アレンは左腕。私は双燐を通してイノセンスの気にあてられる。
痛い。苦しい。身体が引きちぎられそうな苦痛が襲ってくる。
私とアレンは苦しみに悲鳴をあげ続ける。


「やめろ…っ!君達まで命を取られるぞ」


スーマンは止めさせようと私達に声をかけてくるが、そんな言葉を聞き入れるつもりはない。
私とアレンはイノセンスへの攻撃をし続ける。


「やめろ…オレは殺した…っ!仲間もたくさんの人間も…もうやめろ!!」


スーマンは必死に私達に向けて叫んでくる。自分には生きる資格はないと。自分は人を殺し過ぎたと。それを悔やみ、私達に助けられることを拒んでいる。


『……止め…ない』


その優しさがあれば、十分ではないか。生きて罪を償うだけの覚悟があると、十分言えるではないか。
償いきれない罪はある。人を殺したことがそれだ。どんなことをしても償いきれる罪ではない。赦されることのできる罪ではない。
だが罪を認め悔いることが出来れば、生きる資格はある。自ら望み、十字架を背負って生き続けることが唯一の償いになるのだ。
スーマンは自分の犯した罪を十分に分かっている。今のスーマンならその罪を背負ってちゃんと生きられる。全てを背負って、生きていける。
アレンは自分の右手をスーマンに差し出した。そしてその人たちの分まで、殺した人たちの分まで生きろと言う。


「ぼ…僕達は…っあなだの幸せをねねっ願って………ます」


願っている。スーマンの幸せを。生きて、いつか娘さんに会える日が来ることを。
スーマンは覚悟を決めたようで、アレンの右腕に噛みついた。


「生きたい…っ生きたい!!」


私は両腕で全体重を懸け、イノセンスに双燐を突き立てる。


「うぉおおおおおおおおおおおお」



ゴッ!!



『…っ!!』


私の持つ双燐の剣先が下へと沈んだ。
今まで双燐に突き立てられていたものがバラバラに破壊されるのを感じた。
イノセンスとスーマンが切り離されたのだ。
次の瞬間、スーマンの咎落ちの体は破壊され、夜の空を光で照らす。その光は一瞬だけ月を月食のように黒くし、そして何もなかったかのように消えうせた。
私達の身体は宙へと放り出される。


『く…っ』


私は吹っ飛ぶ力をうまく逃がしながら空中で体勢を整える。これなら何とか着地出来そうだ。
私は髪が風に大きくなびくのを感じながら、同じように下へ落下するアレンの方を見る。


『アレン、無事?』
「大丈夫、スーマンもいます!」


アレンの腕にはスーマンがしっかりとしがみついていた。無事にイノセンスとスーマンを切り離せたようだ。
やはり咎落ちになった者でも助けだせるのだ。咎という名の罪をすべて飲み込み、背負って生きていく覚悟さえあれば。
私はフッと笑い、双燐の発動を解いた。


『アレン!今から2人の手当てする!多少の応急処置しかできないけど何とか病院まではしのげるはずだから』
「分かりました。スーマンを連れて早くおりよう」
『アクマのいないところに。それとリナリーに連絡…がっ!!』
「フィーナ!?」


整ったはずの体勢が突然崩れ、ゆらっと身体が風に煽られる。
――……な…に……?
頭に鈍い衝撃が走る。
そして額から下へ何かが流れ出てきた。


『…血?』


自分の頭から伝う血液を見てやっと何が起こったのか理解した。大方スーマンの飛散した白い体の一部が頭に当たったのだろう。もっと注意を払っておくべきだった。こんなところで意識を失ってはまずいのに。
だが意思に反して視界はどんどん狭まり、意識は遠のいていく。分かるのはもうすぐ身体が下へと到達するということぐらいだ。


「フィーナ!!」


――…ア…レン……
アレンの声を最後に私の意識はそこで閉じた。





第54夜end…



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