長編 | ナノ

 第049夜 罪



「スーマン!!!」


リナリーがそう叫んだ瞬間、スーマンから破壊力が半端ではない攻撃が繰り出される。それは何百体もいたアクマを一瞬にして消し去り、破壊してみせた。
あれの攻撃範囲が半端なく広いことなど容易に分かる。遅かれ早かれここも危なくなるだろうから、早く移動しなければならない。


「スーマンは、アレンくんと同じ寄生型の適合者だったのよ…ソカロ舞台で先日襲撃に遭って、行方不明になったって聞いたわ。アクマが大群で現れたのも…彼の咎落ちを知ってなのかもしれない……」
『え?教団ですら分からなかったのに、何でアクマ達がそれを知って……!!』
「フィーナ?」


アレンの声には反応せず、私は素早く立ち上がる。


『2人共伏せてて』


私の言葉で危険を感じ取ったのか、アレンはリナリーの体を庇って伏せた。
その瞬間、ドン!!と近くの谷が攻撃され、私は地を蹴って飛び上り、体を半回転させる。
それと同時に双燐を巨大化させ、回転の勢いで破壊して落ちてくるでかい岩をはじき返す。
――本当に見境なしだな…。
離れていても全く油断が出来ない。
私はでかい岩をすべて片付けたところで着地し、2人に駆け寄った。


『本当にヤバいよ、ここ。すぐに移動したほうがいい』


私はリナリーの腕を引っ張って立たせようとするが、リナリーは頬に涙を伝わせた顔で私とアレンを見る。
そして言う、スーマンを助けなければと。


「教団で見たあの実験のことをどれだけヘブラスカに聞いても何も話してくれなかった。咎落ちになったあの子がどうなったのか、私は知らない…何も知らないの…」


涙を流しながら言うリナリー。
リナリーはスーマンのことを助けたがっている。そして知りたがっている、昔見た実験の被験体の子供がどうなったのかを。


『…確かに、スーマンは助けるべきだね。私達と同じ使徒だから』
「あの、じゃあ…」
『だけど』


アレンの言葉を遮り、私は座り込むリナリーを見下ろす。


『私は賛同しかねる』
「……っ」
「フィーナ!?」
『今の攻撃見なかったの?あんな奴の近くに行ったら消し飛ぶだけだよ。助けるにしてもどうやって?方法はあるの?』


私の言葉に2人は押し黙る。
後先考えず突っ走る私がこんなことを言うのも何だが、これはあまりに危険すぎるのだ。救済方法も分からず、あんな力を持った奴を前に下手に行動するのは命取りだ。


『とにかく私は反対。それでも2人が行くって言うなら…』
「…フィーナは残る…ってことですか?」
『まさか』


私はアレンの言葉を鼻で笑い、武器を取り出し、2人に向ける。


『力づくでも止めるまでだよ』
「……っフィーナ…!」
『悪いね。これが私のやり方だから。どうするの。戦う?退く?』


そう問う私にアレンは言葉に詰まるように口を開かない。
――私も最低だな…。
アレンやリナリーに選択できない選択肢しか示していない。結果的にはスーマンを死なせる選択肢しか私には示せないのだ。
だけど私はこのやり方を決して変えはしないだろう。この2人を死なせるわけにはいかないから。


「………戦うよ」


双燐を下ろそうとする私に掛けられたリナリーの言葉。
私は目を見開き、リナリーを見る。
リナリーは涙を拭い、立ち上がっていた。


「フィーナが私達を止める理由と一緒だよ。私もスーマンを、死なせたくないから…」


そう言うとリナリーはイノセンスを発動させる。


「フィーナは傷つけたくない。だけど、フィーナに勝つことでスーマンが助かるなら、私は戦うよ。スーマンは私の大事な仲間だから。フィーナと同じくらい、大切な仲間だから…」


震えが既になくなっているリナリーの言葉に私は睨むような視線を向ける。
リナリーの目は私の視線に臆することなく固く決意を秘めていた。
私はしばらくその状態で硬直し、やがて息を吐いて手をあげる。


『分かったよ、降参。参った』
「フィーナ…?」
『だってリナリーと戦ったら無事で済むわけないもん。私、怪我するの嫌だから』


私はふてくされる様に言い、双燐の発動を解く。
リナリーが怪訝そうな顔をしているのを見、それに私は思わず笑ってしまった。


『リナリーの仲間思いなところには本当に負けるよ。やっぱ敵わない』
「じゃ、あ…」
『一緒に行くよ。私がリナリー守ってあげる』


私がそう言うとリナリーは少し驚いていたが、同じように笑った。


「…ありがとう。フィ…ナ…」
『こら泣くな。美人が台無し』
「あのー…2人とも?」
『感動の場面に水差さないでよ、アレン。もちろんアレンも行くんだからね』
「まぁ最初からそのつもりでしたけど…」
『よし、じゃあ行こう』


私は先程までの姿勢を一気に切り崩し、やる気を出す。
心なしか後ろで2人の笑い声が聞こえた気がした。



☆★☆



私とアレンはリナリーに支えてもらいながら宙を移動する。
またスーマンにアクマが群がり始めたのが分かる。
だがリナリーは遠慮なくその中に飛び込み、


「円舞 霧風!!」


黒い靴によって繰り出される技の中に、スーマンが閉じ込められる。イノセンスによる技ならアクマも下手には手出しできないし、スーマンの逃げ道も絶ったわけだから無事に辿り着ける。


「スーマン!!」


私達は何にも邪魔されることなくスーマンの身体が露出ている個所に着地する。何だかとてもごつごつしている場所だ。


「スーマン!」
「待ってリナリー!この穴には踏み込まない方がいい」


スーマンの身体が埋まっている穴は私達が立っているような固い場所ではなく、泥のように柔らかいところだった。嵌まって抜け出せなくなったら元も子もないから、今は踏み込むべきではない。


「スーマン!私だよ!リナリー!分かる!!?今助けるから」


リナリーがスーマンに呼びかけるが、本人は反応しない。


『…スーマン、聞こえてる?』
「スーマン……………!?」


全く反応がない。気を失っているのだろうか。
イノセンスに侵されたその体はひどいものだった。


「引きづり出そう!」


アレンがスーマンに向かって手を伸ばす。
そこでスーマンも嵌まるその穴の中からドパッと何かが出てきた。驚いて視線を向ければそれは子供…女の子だった。


『……っ!?』
「たすけて…お母さん…どこ…?」


――何で、こんなとこに…
まさか何処かで巻き込まれたのか。


「たすけ…」
『……!ダメッ!!』


子供がどんどん埋もれて行く。
私は手を突っ込み、子供の服を穴の中で掴む。
だが腕が中で締め付けられてうまく引き出せない。
私の身体も腕からどんどん引き摺り込まれる。


「フィーナ…!」


アレンが私の腕のすぐ横に左腕を突っ込んだ。


「うおぉおぉぉおお!!」


アレンはぐいっと力いっぱい服を引っ張り、子供を引きずり出した。


『…よかった』


私は助け出された子供を見て安堵する。こんな子供を巻き添えで死なすわけにはいかない。聖戦に無関係な人間は犠牲になる必要はないのだ。


ズ……


『え…』


私の腕に何かが巻きついた。見るとそれは穴から出ている泥のようなもの。振り払おうとしてもそれは力強く私を引きこんでくる。


「フィーナ!!」
『……っいい!』
「え…」
『あの子…っ』


私は引きずり出した女の子を指さす。
気づけばアレンの体も泥の中に引き込まれていた。私と同じで半分以上埋まっているから、もう逃げ出すことは出来ないだろう。
アレンはリナリーに子供を差し出している。


『リナリー…早く…っ』
「フィーナ…!」
『私とアレンは大丈夫だから…あの子、助けて…』


私の視界が完全に泥に覆われる。


「フィーナ…!!」


私はギュッと目を瞑り、泥の中にどんどん埋もれていった。













埋もれたところは、水中だった。


『あ゛…』


私はすぐに異変に気が付く。
――…何…か、が……
何かが、頭の中に入ってくる。逃れようと思っても抗えない。
誰かの記憶、誰かの視界、誰かの心。誰かの全て、全部が頭に…私の中に、流れ込んでくる。


『あ゛…あ゛……』


私は両手で頭を抱える。




『あああぁああぁぁぁぁぁあああああ!!』




――おい、チェス勝負しろ。
――スーマン、もうちょっとみんなに優しく…
――新入り?あぁ、確か呪われてるとかいう…。
――死にタくなイヨ…死にタくなイヨ…


教団で過ごした記憶。仲間がすぐそばで死に絶えた記憶。そして自分も殺されそうになった記憶…。
一人の男の人生における全ての記憶が、感情が…私の中に流れ込んでくる。


『やめて…やめてっ!!』


ダメだ。抱えきれない。頭が潰れる。もう流れてくるな。


『やめろぉおおぉぉおおお!!』


私はそこに響き渡るぐらいに叫ぶ。




―――パパ……―――




『……!』


頭の中で流れる映像の中に、小さな女の子の映像が映る。そしてその子に対する思いも同時に流れ込んできた。
それから私の頭は全てを吐きだしたかのように静かになる。そりゃそうだろう。全て私の中に伝わってきたのだから。


『…は…ははっ……』


意外にも最初に込み上げてきたものは笑いだった。全く笑えないことだというのに、どうしても笑いたくなった。
――そう、だったんだ…
そういう、ことだったのか。
私はスッと目を閉じる。


死にタくなイヨ…


一番強く流れ込んできたのがこの言葉だった。スーマンは、この気持ちに負けてしまった。戦いを恐れ、死を拒んだ。そして、生にすがった…。


『スーマン、あんたは…神を裏切った……』


スーマンはもう、神の使徒ではない。自分からその宿命を捨ててしまったのだ。
死にたくなかった。死んだらもう、娘に会えない。家族に会えない。もう会えない。それが怖くて、怖くて…逃げ出した。
スーマンは裏切り者だから…だから、咎落ちになったのだ。





第049夜end…



prevnext

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -