長編 | ナノ

 第025夜 再生



ロードは傘に乗り、ミランダの能力についてあれこれ傘と話している。
人と傘が会話をするという事実もそうだが、それよりも当たり前のようにアクマがロードに付いていることにやはり違和感を覚えずにはいられない。外見が人である者とアクマが隣り合わせに視界に写されるのは自分の中の常識を覆された気分でまだ目に慣れていないのだ。


「…アレン君、あの子何?劇場で…見かけた子よね。アクマ?」


リナリーが聞く。リナリーは今まで意識がなかったからロードが何者であるかは知らない。まぁ実際目にし、耳にした私も未だよく分かっていないわけだが。


「……いえ。人間です」


その一言でアレンはリナリーに伝えた。アクマと共にいるこの子供が人間だ、と。


「…そう」


リナリーは一瞬で状況を飲み込んだようだ。
私は双燐を軽く握り締める。人間相手に武器を使うことなど慣れている。そうやって今まで生き延びてきたのだから。
本気でいく。手加減などない。
戦意をたぎらせる私だが、何故かロードは戦おうとしない。


「アレン・ウォーカー。アクマの魂が見える奴」


ロードはまるでそこに透明のガラスがあるかのように、ALLENと目の前に書いてみせる。
――…こいつ、アレンを…


「あんたアクマの魂救うためにエクソシストやってんでしょぉ?大好きな親に呪われちゃったから」


元々アレンは千年伯爵を1度呼び出しており、しかもエクソシストになった後も1度接触していると聞いた。
アレンの事情は千年伯爵が全て知っている。近親者であるロードに軽々しく話したのだろう。


「おいお前」
「ハイ」


ロードは近くにいたアイスファイアのアクマに声をかける。


「自爆しろ」
「え?」
『なっ…』


ロードがアクマに自爆を促した。
自爆はイノセンス以外のアクマの破壊方法だ。


だが味方であり、今は戦力となっているアクマを自爆させる必要など何処にある。
一体何を考えているのか。


「傘ぁ10秒前カウントォ」
「じゅ、10レロ」


9レロ


8レロ


「ちょっ?ロ…ロード様そんなぁ…」


7レロ


「やっとここまで進化したのに…」


6レロ


アクマの言葉をロードは完全に無視している。
ロードの企みは一体何だ。


5レロ


「…っ!ロード様?」


逆らうことができない絶対的な命令。
言うことをきいて自爆するか、きかずに殺されるか。どちらにしても待ち受けているのは死。
アクマは焦る。


「おい!?一体何を…」
「イノセンスに破壊されずに壊れるアクマってさぁ…例えば自爆とか?」


――……?


3レロ


「そういうアクマの魂ってダークマターごと消滅するって知ってた?」


――まさか、こいつ…
私はバッとアレンの方を見る。


「そしたら救済できないね―――――!!」


それを知ったらアレンがどうするか分かって…


2レロ


「やめろ!!」


案の定、アレンは走り出した。残りは2秒を切った。どう考えても間に合うはずない。
アクマは躊躇ってはいるが、簡単に分かる。ロードへの恐怖に負け、アクマが自爆は選択すると。


『アレン、戻って!!』


私はアレンを止めようと走る。


「アレン君ダメ!!間に合わないわ!!」


1レロ










「ウギャアアアアアアアアアア!!」









カチッ










ドオオオオオオオオォォ!!!!












…タイムリミット。目の前でアクマは爆発した。
だがアレンはリナリーに止められて何とか無事だった。リナリーの対アクマ武器が速さ重視のもので本当によかったことだ。リナリーがいなかったらアレンは恐らくダメだっただろう。


「キャハハハハ」


ロードは耳障りに笑っている。あのようなことを言ってアレンを嗾けたのだろう。どうせ面白半分だ。ダークマターに囚われている魂のことなど考えてすらいないだろう。
ツゥ…とアレンのペンタグルが歪んだ。まるで血が流れるように。


「あ゛あっ…」
「!?アレンくん…」


呪いは人によりかけられ、人だけが受けるもの。それを受けた者は一生蝕まれる。その呪いによる方法で。かけた者の怨念によって。


「くそっ…」


アレンは顔に当てていた手をどけた。そして、


「何で止めた!!!」


リナリーに叫んだ。こんなアレンの表情を今まで見たことがない。
アクマの魂を救うためにアレンはエクソシストとなったのに、魂が永遠に闇に囚われる姿を見てしまったからだろう。
だがアレンはリナリーの、仲間の助けを拒んだ。


バシッ!!


――…!
リナリーがアレンをひっぱたいた。私だけでなくアレンも予想外だっただろう。


「仲間だからに決まってるでしょ…!!」


リナリーは目に薄く涙を浮かべている。仲間を思ってしたこと。それを拒絶されたリナリーの感情のやり場はそれしかなかったのだろう。


『………』


私はリナリーの背中に手をのせてさする。
リナリーは今にも泣きださんばかりの顔だ。しばらくその様子を見つめ、私は深くため息をついた。


『…らしくないね、アレン』
「!」


アレンは私の言葉に顔をあげた。黙って2人のやり取りを見ていた私が言葉を発したことに驚いたのだろう。


『リナリーが誰のためにこんなことしたと思う?1つ間違ったらリナリーだって巻き込まれてた』
「でも…っ!」


ギッ!


「……っ」


アレンの言い返しの言葉を私は目で抑圧する。
リナリーは自分の身が危険だと分かっていてもアレンを助けた。それを拒絶して非難するなど非道もいいところだ。守ってもらわなければ今頃存在していなかったというのに。
――…守ってもらわなければ…
私はギリッと奥歯をならす。
だが勘違いしてはいけない。この場では私は他人であり、第三者。
リナリーの救いは報われなかった。それはただ哀れと思うしかない。
救いを拒絶した者。そしてそれはただ愚かと思うしかない。
私はリナリーから手を離し、ため息をつく。今のアレンは、ただ見苦しい。


『…ほんとらしくないね。少し頭冷やしなよ』


私の静かな怒りの剣幕と言葉でアレンは押し黙った。


「スゴイスゴイ!爆発に飛び込もうとするなんて、アンタ予想以上の反応!」


ロードは傘に乗ってこちらを見下ろしている。どこまでこちらをなめくさる気か。


「でもいいのかなぁ?あっちの女の方は」


ロードの指差す方を見ると、残った風切鎌のアクマがミランダの方へと向かっていた。
ミランダが発動したといってもまだ初めてだ。それにあのイノセンスは戦闘向きのものではなくサポートタイプ。不意打ちなら尚更対応できるはずがない。


『っと!』


私は双燐を5本に増やし、投げつける。


「いかせるか」


アレンも銃器でアクマを攻撃した。
私達2人の攻撃によってバランスを崩したアクマの方へとリナリーが飛ぶ。
リナリーの一撃により、バアァァン!!とアクマが爆ぜた。破壊したのだ。
――さて、どうする…?
見事な形勢逆転。これで全てのアクマが破壊された。残るはロード1人だけだ。
だがロードの話を聞く限り、これ以上戦う気はないらしい。
リナリーはミランダの方へと向かっていき、一方アレンはロードと何やら話している。
そしてロードはアレンの横をすり抜け、行く先に扉が現れた。


「じゃねェ」


扉を抜けようとするロード。アレンはその頭にガチッと武器を突きつけた。


『………』


ロードはアクマを自爆に追い込み、さらに中にある魂まで殺した。
呪われた左目でアレンは消滅した魂を見たはずだ。一生抜け出すことができない、地獄に嵌まってしまった魂を。
ロードが憎いはず。殺したいくらいに。
だがアレンは分かりやすい。例えロードが千年伯爵の味方でも、消えた魂のことを思って涙を流しても、アレンが銃器を打つことはないだろう。ロードを、人間を殺すことなどアレンには出来はしないだろう。
アレンは優しすぎて甘すぎるのだ。最終的にはそれが全て自分を傷つけることになるというのに。


「また遊ぼぉ、アレン。今度は千年公のシナリオの内容でね」


バタンッと扉がしまる。ロードは扉の向こうへと消えていった。
静寂だけが虚しくその場に残される。
…何とか終わったのだろうか。ロードを仕留められなかったのは悔やまれるべき事実だが、そんなことをしていたらロード自身の力が私達に牙を向く事態になっていただろう。身体的に限界である今の私達の状態では仕方のなかったことだ。
――…もっと強くならなきゃな。
私は息をついて発動を解いた。





第25夜end…



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