長編 | ナノ

 第024夜 ミランダの発動



ミランダから…違う。時計から光が出てきた。
光はアレンとミランダを包んでゆく。光は半球状に2人を包み終えたかと思うと、その光は時計の模様を浮き上がらせ、逆に時を刻み出した。


『あはは…発動したんだ…』


今まで奇怪を起こし続けていた時計が、イノセンスがミランダの意思に反応し、発動したのだ。
やはりミランダは適合者だったのだろう。
ギリギリのところになって力を解放した…先程までは何をしようと無反応だったのというのに。イノセンスとは本当に訳が分からない。
私は痛みを堪えて大きく息を吐く。
――くそー…
本当に視界がぼやけてきた。ここで気を失ってはまずいのだが、あまりに脇が痛い。息をするのも辛い。生ぬるい液体が溢れてくるのが分かる。
私は襲ってくる睡魔に懸命に抗うが、あまりの瞼の重たさに耐えられず目を閉じた。痛みはやまなくても自分を縛るものから解放された気分になる。眠ってしまいたい。
だがそこでガシッと何かに体を掴まれた。


『ぐ…っ!』


そしてどんどん引っ張られてゆく。
――アクマか…
目を開けようと思っても瞼が重すぎるし、逃れようと思っても身体が動かせない。ただされるがままだ。
アクマであったら恐らく抵抗する間も与えられずに殺されてしまう。引き裂かれるか、頭を潰されるか、燃やされるか。


『………』


怖くない、と言ったら明らかに嘘になるだろう。死だけはずっと、ずっと拒絶してきたのだから。
だが受け入れられない、と言ったらそれも嘘になる。私は元々死すべき存在なのだから。死ぬべき道を見据えて、歩いて来たのだから。
結局私はどちらを望んでいるのだろう?と状況に全く見合わない考えを巡らす。
――……でも、どうしてだろう…
先程からずっと感じていた。体を握られている感覚があの時と一緒だと。教団に初めて来て、森の中で味わったあの感覚と。
すると突然、暗い影でしかなかった視界が明るく染まった。どこか冷気が漂っているような凍てついた雰囲気の場所から一転し、梁わりとした暖かさが体を包む。
何処なのだろう。光に包まれた空間だ。夢のような世界と思う一方で、何処か物理的な力を感じる。
その空間に入ると私の身体は掴む手によって、ゆっくり床へと寝かせられた。
何故か頭や体全体、脇の痛みもだんだん取れていく。


「……フィーナ?」
「フィーナ、分かる?」


そこで3ヶ月間の間にすっかり聞き慣れた声が聞こえた。アレンとリナリーだ。
私はゆっくりと目を開ける。


『アレン…リナリー…?』


目を開けると自分を覗き込んでいるアレンとリナリーの顔が目に写った。2人は心配そうに自分を見つめていたが、張りつめていた顔が2人共ホッとしたように緩む。
――……っ
2人のその表情がある人物と重なった。一瞬2人の横に影が見える。




――フィーナ…――




『…っ』


昔の記憶。もう遠すぎて手が届かない記憶。
治ったはずの頭痛がまた戻ってきたような気がした。
私は頭を押さえ、荒くなる息を整える。


「フィーナ…?フィーナ、どうかしたの!?」
『…何でもない』


私は首を振って否定を示す。
――…ダメ、落ち着け…
この2人は違う。違うなら、今は思い出してはいけない。重ねてはいけない。ここは全く違う世界なのだから。
私はふぅ…と息を吐き、2人に笑う。


『心配しないで。大丈夫だよ』
「…ほんとですか?」
『ほんと!』
「そうですか。よかったぁ…」
「もう大丈夫よ」


2人の言葉に起き上がり、私は自分の身体を見る。


『やっぱり怪我、消えてる。どういうこと?』


よく見てみれば、アレンの左目の怪我も消え、リナリーの意識も戻っている。揃いも揃ってどういうことか。


「僕たち、ミランダさんのイノセンスに助けられたんですよ」
『ミランダの?』
「え?わ、私…?私が…??」


ミランダは訳が分かっていないようだ。恐らく発動も無意識だったのだろう。あの時、ミランダとイノセンスの意思が結び付いたのも危機的状況であったからこそなのだから。


「あなたの発動したイノセンスが攻撃を受けた僕らの時間を吸いだしてくれたんです。ありがとう!ミランダさん!」


アレンはミランダに笑顔を向けた。
感謝されたことが嬉しいのか、ミランダは涙を流している。
――…なるほど。
発動したのは分かったが、まさかこんなことが出来るとは。
私達の回復、発動時の逆回りの時計模様、そしてこの街の奇怪現象からいって、恐らく時間を巻き戻す力がミランダのイノセンスの能力というところだ。散々な奇怪を起こしてくれた分、随分と便利なイノセンスなことだ。


「フィーナ…?大丈夫?」
『あぁ…』


ボーッとしている私にリナリーは心配そうに問いかけてくる。


『あのさぁ…アレン、リナリー』
「何?」
「どうかしましたか?」


私は再び床へと寝転がって言う。


『ちょっと眠たくなったからここで軽く睡眠とってちゃ…』
「「ダメ!」」
『…やっぱり?』


きっぱりと言われてしまい、ちょっと薄情に思う。
この街に入ってから奇怪のせいで夜はないに等しかった。さらに丸3日ミランダの就職活動には散々付き合わされたのだ。体はもうガタガタだというのに。
――ま、それは2人も一緒だけど。
私は起き上がって大きく伸びをする。


『仕方ない、いきますか…!』


――イノセンス、発動!!
私は双燐を発動して新たに6本の双燐を生み出した。
ミランダの光の空間からビュンッと当てずっぽうに外へと投げる。
そして私自身も外へと出る。視界が光に包まれた世界から一変して、先程までいた暗くて薄気味悪い部屋になる。


「当たんないよ〜」


アクマ達は攻撃をかわすと舌を出して笑ってくる。ムカつくが、別にいい。


『いいんだよ、当たらなくて』
「え…?」


ただ注意を引くだけでいいのだから。


「円舞「霧風」!!!」


隙をついたリナリーがアクマへと攻撃した。
アクマは霧風の中へと捕らわれる。


「ちくしょう、何も見えねぇ!!どこだ、エクソシスト!!」


霧風の影響で視界がふさがれているアクマ達は踊るようにもがいている。さすがリナリーの攻撃。敵を圧倒している。
私は双燐を新たに分裂させつつアクマの位置を浮かぶ影から把握し、


『アレ〜ン!丁度真下――っ!!』


私は手をメガホンにし、上を飛ぶアレンに叫ぶ。
さらに地を蹴った勢いを利用し、双燐を投げた。
アレンの銃器と私の双燐が音波のアクマを直撃し、大きな爆発音をたてて破壊された。何かと回避が難しかった音波の攻撃を一番に潰すことが賢明だったのだ。


「へぇ〜〜エクソシストっておもしろいねェ」


ロードが見下ろしてくる。なめてるようにしか見えないその笑みが気に入らない。


「勝負だ、ロード!!」


私達は同時に武器を構え、下へと降り立った。





第024夜end…



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