長編 | ナノ

 第018夜 黒の教団壊滅事件改め黒の教団壊滅未遂事件



――……どうなったの?
私は朦朧とする意識をゆっくりと可動させる。あぁ死んだのか…とも思ったが、すぐにその考えは否定された。


「リナリー!!この中にアレンがいるんだ」


なぜならリーバーの声が聞こえるから。どうやら助かったようだ。
私はゆっくりと目を開ける。そこはコムイ達がいる空間、つまりエレベーターの上だった。ひどく無理な角度に傾いている気がするが。
私の身体はコムイに辛うじて支えられていた。


『………』


私は腕を抱えるように自分の身体に触れてみる。
――…止まってる。
全身に広がり、動けないくらいになっていた痙攣は止まっている。
手を動かしてみるが、別に麻痺している感覚もない。異常ない。
そこでズバン!!と派手な破壊音が聞こえてくる。


『……あ!』


見るとリナリーがコムリンと応戦している。麻酔薬が切れたようで意識を取り戻したらしい。きっとここまで運んでくれたのもリナリーだろう。
――だったら…
私も参戦するのみ。
私は身体を支えるコムイの腕を振りほどき、ダッ!!と柵を蹴ってエレベーターを飛び降りた。


「あ、フィーナちゃん!」


気がついたの?という声が背後から聞こえたのと同時に私は発動する。
再び1本の長剣にし、ガンッ!!とコムリンの手足のうちの一つを破壊する。リナリーにやられたせいもあってか、コムリンかなり脆くなっていたらしい。
四肢の一つをもがれたせいか、コムリンは意味不明な動きをし、リナリーを撃つ。
だがそれは一発も命中しない。逃げ惑うリナリーが速すぎるのだ。


『…靴か』


リナリーの足元からイノセンス特有の薄緑の発光が見られる。
どうやらリナリーの対アクマ武器はあの靴らしい。
あのスピードには誰も付いていけないだろう。


「へっへ、ばあか。イノセンスを発動したリナリーを捕えられるもんかよ…」


私はコムリンの頭部へと降り立つ。暴れているため足場が悪いが仕方ない。


「胡蝶のように天空を舞い、鋼鉄の破壊力で地に堕ちる…それがリナリーの対アクマ武器「黒い靴」だ」


――ダークブーツ…
リナリー速すぎる。
正直、私がスピード負けするような相手にはなかなか巡り会わない。素速さで生き延びてきたようなものだから。
だがリナリーは全くの別格だ。何よりもスピードが重視された対アクマ武器なのだろう。
まぁ武器だけの働きだけでなく、それとシンクロして力を引き出すリナリー自体もすごいわけだが。
そうやって色々考えている間にリナリーの一撃でコムリンは真二つにされた。
――すげー…。
あまりに圧倒的で私は口をぽかんと開けて見ているだけだった。


「ブッ壊せ♪ブッ壊せ♪ブッ壊せ〜♪」


科学班一同からはぶっ壊せ♪という声が挙げられている。
上司であるコムイに対する情など微塵も感じさせない様子に思わず苦笑いするが、


『いけ〜リナリー』


私も同感のため非難などしない。ここまでやってくれたのだ、粉々にしてくれ!というのが恐らく私を含む団員の総意だ。


「待つんだ、リナリー!コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!」


――…コムイめ。
何処からかコムイがひょっこり現れた。さすがにここまでくると見苦しいにもほどがある。教団は壊滅寸前になるわ、それを挙げ句の果てにはリナリーがいれたコーヒーのせいにするわ…。そこまでコムリンが惜しいか。仮にもリナリー狙った奴だぞ。しゃしゃり出るな、すっこんでろ。


「罪を憎んで人を憎まず。コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ、リナリー」
「兄さん…ちょっと反省してきて」



ドゴッ!!



リナリーの軽い一撃でコムリンは教団の下へと墜落した。


「なんだかなあ、もう」


――…それはこっちが言いたいよ。
私は深くため息をつく。
とりあえずこれでコムリン騒動は幕を閉じたのだった。



☆★☆



『リナリー!』
「え…?」


リナリーがこちらに気づいて振り返る。
私は発動を解き、リナリーの元へと駆け寄った。


「フィーナ…っ声…!!」


そうだ、リナリーはずっと気絶してた。それなら私がアレンやリーバーと会話してたことは知るはずもない。
私はリナリーにニコッと笑う。


『出るようになったんだ、任務の時』
「そう!よかった…!綺麗な声ね」


リナリーは手を会わせてパッと顔を明るくする。何だか癒される。


「そうだ。フィーナ、ありがと」
『え?何が?』
「ずっとアレン君と守っててくれてたでしょ」
『……ああ、そのこと』


先程は確かにリナリーの盾となり、コムリンと戦っていたわけだが…リナリーは戦える状態じゃなかったし、それは当然だ。それに結局は助けられたからまぁおあいこだろう。
そこで私はハッと気づき、恐る恐る手のひらを見る。
――…あれ、結局何だったの……
技を使っている最中に突然襲ってきた痙攣。
あの時は全く動かなかったはずの身体は今、自由に動かせる。一時的なもののようだが、何かの発作だろうか。
双燐は何年も使ってはいるが、こんなことは今までに体験したことはなかった。
もちろんこの私の身体自体に持病があるわけでもない。
それなのにどうして今。一体何が起きたのだろうか。
――…よく分かんないや。
私は途中で考えるのをやめる。面倒臭くなった、というよりも睡魔が襲ってきたからだ。


『ねえ、リナリー…』
「何?」


私はふらふらして塞がろうとする視界をかろうじて開ける。
これ以上は電池切れ。


『ごめん…眠たい』


私はドサッとリナリーに倒れこむ。


「ちょ、フィーナ!?フィ……」


リナリーの声が遠くなり、やがて聞こえなくなった。
迫り来る睡魔に打ち勝つことができず、私はリナリーにもたれるようにして眠りについた。



☆★☆



トンテンカン


トンテンカン


『みんな頑張ってるね』
「うん。あちこち壊しちゃったから…」


リナリーは少し苦い顔で言う。本当に苦労してるな、リナリーも。
とはいっても三分の一くらいは私の技が破壊したものだが。予想の範疇だったが、少々申し訳ない。だが正当防衛だ、仕方なかったのさ、と結局は開き直る。
――それに私の部屋が何の被害もなかったから別にどうでもいいしね。
幸い、私の部屋は崩壊範囲内からギリギリのところで外れていた。アレンの部屋はまともにその被害を受け、壊れてしまったようだが。運が悪い奴。ご愁傷様だ。
現在団員総勢で教団内を修理しているらしい。


「フィーナ、もう体は良いの?」


リナリーが心配そうに聞いてくる。
そこで窓から朝日が差し込んでくる。
目が覚めたら私はアレンと共に科学班のソファへと寝かされていた。あまり長くは眠れなかったが、疲れは何とかとれたよう。昨日よりも身体が軽い。


『大丈夫だよ。もう何ともないし』


私の言葉にリナリーは安堵した表情になる。


「よかった…アレン君も大丈夫みたいだね。眠ってるだけだし」


リナリーは私の隣のソファで眠っているアレンを見る。アレンはコムリンに治療(?)を受け、ボロボロになっていた。だが特別外傷ないし、マッチョにされてもないわけだから恐らく大丈夫だろう。
リナリーは笑う。


「迷惑かけちゃってごめんね。おかえり」
『うん…ただい、ま』


また歯切れが悪くなってしまう。やはり慣れるには少し時間がかかりそうだ。
――…そろそろ…
皆、起きている頃か。
私は息を吐き、ソファから起き上がる。少しばかり用がある。
私は立ち上がって出口へと向かう。


「あ…フィーナ、何処行くの?」


リナリーの声に私は立ち止まり、ノブに手をかけて振り返る。


『リナリー、ちょっと用事があるからアレンにイノセンス任せたって言っといて』


ニコリと笑ってリナリーに言う。


「う…うん。分かった」


リナリーの応答を聞くと私はドアを開け、科学班のフロアを出て行く。
そして、リナリーに向けた一瞬で笑顔を消し去った。
それからトンテンカンと音が響く廊下を歩き、私はある部屋へと向かった。





第18夜end…



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