長編 | ナノ

 第012夜 土翁と空夜のアリアC



「後ろ…」


私と神田の剣幕に多少びくつきながらトマが言った。後ろが一体何だ。
私と神田は言い争いを中断して振り返る。


「カ…カ…ンダァ…」


――…アレン?
振り向いた先にいたのはボロボロのアレンだった。それは予想外な程、見るも無惨なあんまりな姿だ。一体どれくらいの勢いでアクマと戦りあったのか。
怪我も少ししているようだが、まぁ出てきたのは一応喜ばしいことだ。
私はアレンに駆け寄ろうとする。
が、その足を止めた。
――……む?
目の前にいる人物は確かにアレンのはずなのだが、何か…おかしい。様子もそうだが、外見が。
そう、多分それは…


「さ、左右逆…っ」


私達の背後でトマが言った。
そう、アレンの全てが左右対称なのだ。
そういえばアクマは対称にアレンの姿を写し取っていると、トマと神田が先程話していたか。
今のアレンは左右逆。
――…アクマか。
私は双燐を抜き、神田も武器を取って発動した。


「どうやらとんだ馬鹿のようだな」


――全くだ。
流石に呆れる。アホか、こんな状況で出てくるなど。
レベル2といっても自我だけでこんなものだったか。
見苦しいから早急に片付けるとしよう。
私は双燐を発動し、偽アレンに向ける。


「カ…ン…ダ…ド…ノ…フィ…ナ…ド…ノ」


――え…?
アレンの姿をしたアクマが言った。かなり小声で聞き取りずらかったが、確かに聞こえた。
――何故こいつは私達の名前を…殿…?ん?
私の数秒間の思考のフル回転はついに最悪の結論に達した。
――まさか…


「災厄招来」


まずい。神田には聞こえていなかったらしい。
聞き耳持たずはこういう場ではどれだけ命取りなことか。
私は腕を伸ばして神田を止めようとする。
だがその手が届く前に神田が刀を振りきった。


「界蟲一幻!!無に還れ!」


神田の剣からあの剣気が発射される。
――…ヤバい。
神田はアクマに攻撃したつもりで当然手加減などあるはずがない。たとえ手加減したとしても、まともな奴があんな攻撃を食らったら間違いなく死ぬ。
私は双燐を手に、神田の技の矛先が向けられている偽アレンの元へ走る。


「おい!」


神田が叫ぶが、気にしない。
技を食い止めるべく走る。
だがどれだけ全力で走っても技と足は速さが違いすぎる。間に合うはずがない。
――くそ…っ
こうなったらダメ元だ。
私は瞬時に双燐を分裂させ、神田の技への投射を試みようとする。
だがいきなりその目標がバンッ!!と爆ぜる。
――…!!
蟲が散り、消える。
神田の技が受け止められたのだ。見覚えのある巨大な手によって。


「キミは…?」


――アレン…!
アレンはひょっこりと壁の穴から出てきた。
素晴らし過ぎるくらいいいタイミングだ。
褒め讃えたいのは山々だがそれは後にし、私は倒れるアレンの姿をした者へと駆け寄る。
――亀裂…
偽アレンの頬には人間にはあるはずのない亀裂があった。


「モヤシ!!どういうつもりだ、テメェ…!!」


後ろでは神田がアレンにアクマを庇ったことを追求している。
だが今はそれどころではない。
神田に対して状況把握を心の底から望みながら、私は双燐を倒れるアレンへと突き立てる。


「神田、僕にはアクマを見分けられる「目」があるんです。この人はアクマじゃない!」


ザクッとアレンの言葉と同時に私は亀裂を勢いよく切り裂いた。


「トマ!!?」


――…やっぱり。
アレンの顔を引き裂いて出てきた奴はトマ。
あのアクマは自身でアレンの皮を被ったわけでなく、トマへとその皮を被せたらしい。
恐らくトマは神田との連絡の前後にアクマに見つかってしまったのだろう。さっき合流したときには既にすり変わっていたのだ。
――…あれ?ということは…
私は目を見開き、バッと振り返る。
――ヤバッ…


「そっちのトマがアクマだ、神田!!」


私達に付いていたトマこそがアクマ。
それに気づき双燐を投げようとしたその時、




ドドドドド…!!!!




「ぐっ」


アクマがトマの皮を破り、神田に攻撃をいれた。
神田の身はアクマに掴まれ、穴が開いた壁の向こうへと消える。


「かっ…神田!!」


――…まずい。
攻撃された拍子に神田の武器が弾き飛んでしまった。つまり今の神田は全くの無防備。
私はトマをその場に寝かせ、再び双燐を発動する。
――ったく…行ったり来たりと…
あの時は反射的に動いてしまったが、トマの身よりもアクマの破壊を優先させるべきだった。結局往復ではないか。
私は崩れる壁を抜けて神田を捕えるアクマへと走る。
ケケケケ…とトマの姿をしたアクマは不気味に笑う。尖る歯と爪をもろに剥き出しにし、蛇のような長い舌を出している。
気色悪さを感じながら私は地を蹴り、2本の双燐を持つ手をアクマへと振り上げる。


「おっと!!」
『…!?』


だが、アクマはもう片手で私の攻撃は受け止めた。アクマの注意は完全に神田に向いていると思っていたが、甘かった。
手に持つ双燐を掴まれている体勢では身を引こうと思っても動けない。
私はアクマから双燐を離そうと必死に腕を動かす。


「おい!武器を捨て…ろ…!!」


身体を捕えられた神田が叫んでくる。
私はその姿をギロリと睨む。
武器を手放す?確かにそうすれば自分の身は守れるがそんな選択肢など私にはない。
双燐は幾本にも分裂させられるという特性を持つが、適合者である私の手から全て離れてしまうと新たに生み出せなくなる。つまり全てが手から離れたら分裂能力は使えず、武器自体が無防備になるのだ。
握り潰されたりしたらたまらない。
私は懸命に腕を引いてアクマから双燐を離そうとする。
――…くそ……っ
だが装備型の私が力でレベル2のアクマに敵うはずもない。
双燐はアクマの手からも私の手からも離れられず両者に掴まれる。


「何?お前も仲間かぁ?」


アクマはニヤリと笑う。
さすがに危機感を感じ、仕方なく私は武器を離して身を引こうとする。
が、アクマがそれを許すはずもない。
アクマは片手で私の体を鷲掴みにする。


「ケケケ!苦しいか?」
『…っ』


ミシミシと体が軋む音。
あまりの痛みに思わず顔をしかめる。
そんな私を見て楽しそうにアクマは笑う。
そして、勢いよく私の身体を壁へと放り投げた。
ドドドドド!!とその勢いは周りの壁を破壊する。


『…っ!!』


それが止むのと同時に私の身体は壁へと叩きつけられ、力なく地に落ちる。
衝撃。激痛。
さらに、崩れてくる瓦礫を私はまともにくらう。頭、肩、背中、腰、足…次々と。


「フィーナ!!」


アレンの声が聞こえ、うっすら目を開けると人影が見えた。
アレンが駆けよってきたようで、揺すられて何度も名を呼ばれる。
だが、その呼び声が遠くなる。
視界は影すら捉えられなくなる。
霞む視界に写るもの、聞こえるもの音全てがスローモーションのよう。
――あぁ、ダメかも…
意識が遠のく。
この場はアレンに任せるしかないようだ。多少の怪我は負っているだろうが、何とかして戦うだろう。心配だが今の私よりはまともな戦力がありそうだから。


『…っ』


身体にビリッと激痛が走る。
それに耐えられず、私はその場で意識を失った。





第12夜end…



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