長編 | ナノ

 第010夜 土翁と空夜のアリアA



「お前が「エクソシスト」って奴だなぁ?」


アクマの言葉と同時にアレンが瓦礫の中から這い出てきた。
――何だ、生きてたんだ。
流石寄生型とでも言うのか、体はかなり丈夫のようだ。
喜ばしくもあり、残念でもあり…私的には何とも複雑だ。


「探索部隊の人を殺したのはお前か…!」


アレンは怒りに満ちた目でアクマを睨む。
――…やっぱり。
だから突っ込んだわけか。
そんなに探索部隊が心配なのか。だったら一体どれだけ守らなくてはいけなくなることか。
アレンは理想が大きすぎて現実を見きれていない。
いつかは分かるようになるといいのだが。“感情で後先考えずに動くのは止めた方がいい”と。
まぁこのタイプは気づかないうちに死んでしまうものだが。
――…あ、そうだ。
私はふと気づく。
別にアレンを心配して見守っている必要はない。私達の目的はイノセンスなのだから、とりあえず今のところアクマはアレンに任せた方がいい。


『………』


見るとレベル1が数体いるところに結界が張ってある。
装置ごと結界を張ってあるようだが、コムイから聞いた話によればあれは長くはもたないらしい。万が一の時に身を守る、単なる時間稼ぎにしか過ぎないのだ。
早くイノセンスを回収するに限る。
神田を見ると自分の刀を肩から抜いている。


「いくぞ、六幻!」


六幻というのか、その刀。
神田が発動した。
――…行くか。
私はメモを書き、神田に提示する。


*援護する*
「フンッ…」


鼻を鳴らすと神田は飛び降りていった。
――…無愛想な奴。
もっと他に言うことはないのだろうか。まぁ話せない私が言うのも何なのだが。
私はアクマと神田を目で捉えながら双燐を抜く。
レベル1程度なら攻撃に2人もいらない。援護にまわってサポートするぐらいでいいだろう。
結界へ向かっていく神田にレベル1の弾丸の発射口が向けられた。ガンガンッと次々に弾丸が発射されていく。
――…第2形態。
私は分裂させた双燐を素早く鎖へと繋ぐ。
そして勢いよく地を蹴り、周囲を一気になぎ払った。
――壊れろ。
第2形態は双燐自体のイノセンスの力に、大きな遠心力を味方につけた、破壊力抜群の形態だ。
弾丸は次々に跳ね返され、アクマの元へと逆戻りする。


「六幻 災厄招来 界蟲一幻!!!」


そこで神田から何やら剣気が発射された。蟲か…気持ち悪い。
だが威力はかなりのよう。私が跳ね返した弾丸、そして神田のその攻撃はレベル1に見事に命中した。
爆音をたててアクマが爆ぜ、破壊された。
私は双燐を鞘に収めながら神田と同じ方に体の向きを変える。
今の攻撃から言っても神田の強さはなかなかだ。昨日対峙した時のスピードは我ながら冷静に対応したつもりだったが、内心はかなり驚いていた。戦闘において神田はわりとやる奴だ。口に出しはしないが。というか出来ないが。
神田と私は着地すると結界の元へ急いだ。
結界装置の周りには倒れている探索部隊が数名いた。私は口に手を近づけて呼吸を調べたが、それも微弱なものだった。もう虫の息と言っていいだろう。


「おい。あの結界装置の解除コードはなんだ?」
「き…来てくれたのか………エクソシスト」


まだ意識があるのか。
頭からの出血量からして、いつ死んでもおかしくないだろう。


「早く答えろ。部隊の死をムダにしたくないのならな」
「は…have a hope“希望を…持て…”だ!」


そう言うと探索部隊はガクッと力なく地に伏せた。恐らく死んだだろう。
私は足を伸ばし、軽々と立ち上がる。
――…この世界に希望はないよ?
心の中で私はニヤリ笑う。
何故かって全て私が摘み取るから。


『………』


探索部隊の死体を見下ろすと、頭を潰されて体もボロボロだ。
きっと、苦しんで死んだだろう。こんな無惨な死を迎えるくらいなら教団などやめてしまえばよかったのに。
教団の存在は誰一人として幸せにしない。人の全てを狂わせる。
そんなところに望んで入って、一体何がしたかったのか。入団を自ら望むことが決してなかった私には到底分からないこと。分かりたくもないこと。
私は探索部隊の死体に背を向け、結界の方へと歩く。


――…下らない。


結局あいつらが選んだことだ。自分から狂った運命を選択したのだ。
自分から教団に入って、自分の意思で犠牲になった、そんな奴が死んだところで何も感じない。犠牲に名乗りを挙げた奴になど…
そんなもの、望まず犠牲になった者への冒涜だ。
哀れむ価値も、同情する価値もない。


神田は結界を解くため中に入っていた。
イノセンスは無事に回収出来そうだから、とりあえず一安心というところだろう。
私は立ち止まり、ふと気になってアレンの方を見る。


「こここ殺じだい…殺じだい殺じだい殺じだい殺じだい」


だがアレンよりもその前にいるアクマの方に視線がいく。
アレンに手こずるアクマは殺したいと言い続ける。それは何ともひどい姿に顔だ。
思わず口角がひきつってしまう。
――…これだからレベル2以上は嫌いなんだ。
元々備わっている殺人衝動が思い切り剥き出しである。このように自我があるからこそ鬱陶しいのだ。
まぁどうせ、これも伯爵の考えがあってのことだ。
自我があればその分、人に苦痛を与えられる。殺害方法を最も残忍に出来、そしてそれは…新たな悲劇を生む。


下らない、本当に。
この世界は全てが下らない。
教団。伯爵。この聖戦の全て。


そこでシュウン…と音がした。
振り向くと神田が結界を解き、中の人形の腕を肩に回していた。
私がそこへと駆け寄ると、気づいた神田は視線を上げた。


「中の2人は無事だ」
*それは何より。手伝うよ*


私は2人を運ぶのを手伝い、その体を支えて神田と共に2人を建物の上へと移動させる。
人形を助け出したとはいえ、まだアクマは元気でいる。イノセンスを守るためにはとりあえずここから避難しなくてはならない。
――だけど、それは…
んーどうするか。
頭を悩ませているところに神田がアレンを見て言う。


「助けないぜ。感情で動いたお前が悪いんだからな。ひとりで何とかしな」


ひどい言い様だが、まぁ一理ある。自業自得というところだ。感情任せに突っ込むとこういうことになるのが分かったことだろう。
だがアレンは助けを求めたりはしなかった。


「いいよ、置いてって。イノセンスが君の元にあるなら安心です。僕はこのアクマを破壊してから行きます」


アレンは1人でレベル2を破壊すると言う。
それが自身に及ぼすリスクを分かって言っているのかと思う。そしてそれは私達に飛散してくる可能性があると言うことも。


「…行くぞ」


だがやはりと言うか、神田は何一つ心配していない様だ。というよりどうでも良さそうといった感じだ。
私だってアレンの身を案じているわけではない。戦力が減ってしまうということとイノセンスを奪われる可能性が高まることを心配しているのだ。
甘いと言っても仮にも今、アレンは同じ任務を全うする奴だ。計算高いコムイが考えたメンバーでもある。
今失ったら多少まずいことになるかもしれないのだ。
単純なのはいいが神田、その辺りも少しは気にかけろ。


『………』


――…でも、まぁ仕方ないか。
何にしてもイノセンスは一度、アクマの元から離さなければならないのだ。ここに3人共残るわけにはいかないだろう。
状況的にアレンはここ、神田はイノセンスになるが、私はどうしようか。神田と行ってもいいが、アレンだけじゃアクマを倒せるか微妙だ。だからといってイノセンスの方も心配。
あぁどうしようか、と私は顔をしかめて悩む。
神田からどうした、と急かす声が聞こえるが、それでも動かず考える。
そんな私を見てか、アレンはニコッと笑う。


「フィーナは神田と行って。心配しなくても大丈夫ですよ」
『………』


その笑顔と言葉通り余裕を感じさせる状況だったら私も安心できるのだが。その姿ではあまり説得力ない。
私はため息をつき、分裂させた双燐を1本、ヒュンッとアレンの足元に投げた。


「え…あの?」


困惑するアレンに今度はメモを放る。
“持ってて”と書いたメモだ。
本人が大丈夫と言うのなら私は神田の方へ行くとしよう。
ただ万一の保険に双燐は持たせておく。それがどんな意味を持つかは私自身にしか理解できないだろうが。


「何だ、今の」


神田が訝しげに聞いてくるが、私はそれにあえて答えずに2人の体を支える。
そしてメモに一言。


*早く行こう*


神田は腑に落ちない顔をしていたが、深くは追求してこなかった。
その単純さに感謝し、私は神田と共にその場から飛び去った。





第10夜end…



prevnext

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -