長編 | ナノ

 第005夜 闘争の終演



「神田!!」


――え…?
誰かの声が聞こえた。
私は反射的にその方向へと巨大な剣を投げる。


「…なっ!?」


そいつの驚く声が聞こえた。
だが同時に私の体全体に押し潰されるような力がかかる。
何か大きな物に体を掴まれ、木に叩きつけられた。


『…っ!』


先程まで持っていた鎖を思わず放してしまった。
背中へと来る激痛に視界が揺らぐ。
ぐっと吐き気をこらえ、視線を動かして私を木に押さえつけている物を見る。


『…!?』


それは…手だった。十字架を手の甲につけた白い手。硬く、大きくて長い爪を持った巨大な手。
その手を目で辿っていくと私と同じ位の年であろう、こちらを見つめている少年の姿があった。
――…エクソシスト…?
この腕の持ち主がその少年。よく見れば先程教団の中でぶつかった奴だ。
若くて信じられないが、恐らくこいつもエクソシストだろう。
私がイノセンスの適合者だという時点で分かってはいたが、やはり神は使徒に年齢は問わないようだ。
とっさに剣を投げたが、どうやら外してしまったらしい。
だが掠るくらいはしたのだろう、腕から軽く血が出ている。
少年のエクソシストは私を押さえつけたまま仲間に巻き付いている鎖を器用に外し、短刀を抜いていく。
あっという間に鎖は外されてしまった。せっかく巻いたのに。


「大丈夫ですか!?神田!」
「…うるさい」


仲間への感謝など微塵も感じさせない声と顔の男は自分に刺さった最後の短剣を抜いた。
相変わらず血はダラダラと出ている。普通なら出血死だぞ。よく死なないものだ。
それと神田というのか、この男。
神田は目の前に落ちている自分の刀を拾う。


「…どうやら大丈夫みたいですね」


少しひきつった顔の少年は私に視線を戻した。
――…星。
目にはペンタグルがついているその少年。
複雑そうなことを語りかけてくるその目で今、私を見据えている。


「フィーナ…ですね?」


ピクッ
私は思わず体をわずかに反応させる。
――こいつ、何故…
フィーナは私の名。
今、この名を知っている者はいないはず。知る者は全て、滅びたのだから…


「僕はアレン・ウォーカーです。君の名前はコムイさんから聞きました」


アレンと名乗る少年。
コムイというのはやはり、あの室長とかいうローズクロス白服眼鏡男のことだったか。
だが何故、コムイという奴は私の名を知っていたのか。今教団に知る者などいないはずなのに…


「手荒なことをしてすいません。お願いです、もうやめてください」


アレンは訴えるように言ってくるが、そんなものは私の心に響かない。逆に鬱陶しい。
それにこいつは何を言っているのだろう。仲間への攻撃を止めろと言っているのだろうか。私だって好きで攻撃してるわけではない。こいつが私を自由にしてくれないから…。
それとも逃げることを止めろと言っているのだろうか。そうだとしたらやめるわけにはいかない。私が求めるものは、自由なのだから。


「やめろ。こいつに何言っても無駄だ」


神田は刀を構えて先程よりも鋭い目付きで睨んでくる。
怯むことは決してないが、あまりの殺気に苦笑してしまう。これだけ敵意を剥き出しにするやつがいるんだなぁと。15年の戦闘経験から言えばある意味貴重だ。


「もうさっきみたいにはいかねぇぞ」


私は神田の言葉にフッと笑う。
――…みたいだね。
神田は自分が負けないという意味で言ってるみたいだが、そういう意味ではない。この状況から逆転するには少しだけ無理があるということだ。
武器を落としてしまった上にアレンのせいで身動きは取れない。見事に形勢逆転だ。
――さて、どうしよう。
顔には出さないが、内心は少々焦り気味。
命までは取られないだろうが、ここで捕まったら一生教団にいなくてはならない。そうなったら自由はない。
だから一生捕まるという選択肢はない。
――…一生は、ね。
そうなるくらいだったら…


『……ッ!!』
「…!フィーナ!!」


私はアレンの手の中で暴れ始めた。
腕を蹴り、爪を叩き、体を左右に動かして必死にもがく。
アレンは少しだけ驚いている。
はぁー…とため息が聞こえた。
次の瞬間、ドスッと私の腹に拳が叩き込まれる。


「ち…ちょっと、神田!!」


そんな声が聞こえたような気がした。
視界が霞み、何も聞こえなくなる。
先程とは比べ物にならないくらいの激痛に私の意識は遠のいていった。





第5夜end…



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