長編 | ナノ

 第084夜 キミと共に



――ドクンッ


突然、私の手の中にある双燐が脈打つ。それはまるで、生命を持ったばかりの赤子の鼓動のようだ。
赤子が何かを求めているようで、幾度も脈打ち、幾度も何かを伝えている。


『…あれと、いたいの?』


私は視線を双燐の求めるものへと動かす。それは、白い道化だった。
バクとフォーを守った1本の腕は白いマントと、滑稽に芸を興じる道化を思わせる、金色の仮面をまとっていた。
思わず笑い出したくなった。
――ピエロが、こんなところにいるよ。
そいつは不意に、こちらへと向かってきた。
私の前へと行き着くと、そいつはグルグルと私の周りを旋回する。
そして私の正面に再び戻り、その仮面は私を見つめてくる。


『…アレンのイノセンスだね』


仮面は笑ったように見えた。
アレンのイノセンスが、新たな進化を遂げたのだ。恐らくアレンが、覚悟を決めたからだろう。人間とアクマ、どちらも守り、戦っていく覚悟を決めたのだ。


『お前はアレンを守りたいんだね。一緒に、戦いたいんだね』


私はあらん限りの戦意を込め、笑った。


『いつかは助けてくれてありがとう。私も一緒に行くよ。一緒に、戦おう』


ドクンッと再び私の双燐から鼓動が聞こえた。
私のイノセンスと、アレンのイノセンスが共鳴している。一緒に歩みたいと、訴えかけている。
――だから、戦おう。


『互いの目的を成し得るまで、死ぬまでずっと、戦おう』


再び仮面が笑ったような気がした。
アレンの、過去のどんな対アクマ武器よりもイノセンスの意思を感じることが出来る。これは武器というものを通り越し、人に限りなく近い存在となったことが一番の要因だろう。戦闘武器という型に収まらない、寄生型でこそ起こりうることだ。


「また変なのが出てきた…」


アクマの方に視線を向けると、そこには水面に突き出されたままのアレンの腕があった。アレンの身体はまだあの中だが、アレンは既に発動した。心配はいらないだろう。


「邪魔だよ。そこ全部消えな」


アクマが猛スピードでこちらへと向かってくる。
私は双燐を構え、アレンのイノセンスの横に立つ。


『2人、頼んだ』


私は大きく飛び上がる。
アクマは、私のことはどうやらお構いなしのようで、アレンのイノセンスが構える、バクとフォーの元へ向かっていった。
立ちはだかるアレンのイノセンスに臆することなく、アクマは攻撃する。


「わああっ」


フォーを抱え、バクが悲鳴を上げる。
――大丈夫。
2人はしっかりとアレンのイノセンスに守られていた。直前に広げられたマントに、2人は包まれていたのだ。
2人は人なのだ。アレンが誓い続ける限り、イノセンスは幾度も人とアクマを救うだろう。


「コイツ…」


アレンのイノセンスは、攻撃を防がれて動揺するアクマの顔面すれすれまで近づいた。明らかに相手を挑発しているように見える。
グルッと回ったり、思わぬところで曲がったり、時には急停止する。その意味不明で滑稽な動きは、戯曲に合わせて軽やかに踊り、観衆を前に戯ける道化師を思わせた。
そこで私は飛び上がった状態から反転し、上の土壁を蹴り、アクマの元へ一気に下降する。


『終わりだよ』


ドッ!!


私とアレンのイノセンスの同時攻撃が、アクマに加わった。
アレンのイノセンスはアクマの両腕をきれいに切断し、私のイノセンスはアクマを鈍く叩き、その体を折り砕いた。
アクマはひび割れた胴と腕だけの姿となり、水面に落とされる。
私は着地し、自分の手に握られる双燐を見る。そして一言。


『……すご』


改良を舐めていたわけではないが、ここまで使い勝手に差が出てくると拍子抜けしてしまう。私のスタイルに合わせて作られた武器は、これ以上にないほど私の戦い方にあっていたというわけだ。
自分の意志に同調して思うように動かすことが出来、大きさも重量も増したというのに、以前よりも明らかに動きの無駄が少なくなった。青嵐牙に劣るところなど1つもない。むしろそれ以上だと言っていい。
やはりアクマと戦うには、この聖戦で生きていくためにはイノセンスがどうしても必要になる。私には双燐がどうしても必要なのだ。
私は双燐を握り締める。
そこでビュンッと何かが私の横を通り過ぎていく。
見るとそれはアレンのイノセンスで、アレンの元へと向かっていく。主の元へと帰るのだろう。
イノセンスは水面から突き出されているアレンの左腕と同化し、砕けていたその腕を修復した。そして、


「行コウ…共ニ…」


そのイノセンスと一体化したアレンが、姿を現した。
アレンはその身に光とマントと仮面を纏っており、左腕は鋭く研ぎ澄まされた爪へと変化している。それはまさに道化師というのにふさわしい姿だった。
私は軽く地を蹴り、アレンの隣へと移動する。


『おめでとう。武器化出来たね』
「……ありがとう」


アレンは少し、微笑んだ。
私もほんの少し、微笑む。


「貴様らぁアあぁァああアぁああ!!」


アクマは両腕もないその体で、こちらへと突っ込んでくる。先程までの冷静さはどこへ行ったのやら。半狂乱になったアクマは、こんなにも見苦しいものか。
私とアレンは一度、目を合わせる。
そして何も言葉を交わすことなく、同時に地を蹴った。


1秒。


アレンは自身の左腕で、向い来るアクマをバラバラにした。
アクマの四肢が全てもげた。


また1秒。


私は逃れようとするアクマの背後に回る。アレンは正面。
武器を掲げたのも同時だった。


「哀れなアクマの魂よ…安らかに眠れ」


ザンッ


私は自身の身を回転させ、両の双燐でアクマを思い切り切り裂いた。





第84夜end…



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