私と不思議な妖精さん 第七話 その一
 今日は、今日こそは一日部屋に缶詰だ。
 原稿の終わらなかった私は、仕事先に詫びメールを入れてから、大急ぎで作業に取りかかった。
 ……PC横にコーヒーシュガーをかじるリョウを置いて。


【私と不思議な妖精さん 第七話
            その一】


 AM9:00。
 目覚めた私は食パンをトースターに入れ、大急ぎで詫びメールを送る。
 送り終わると同時に、チンと音がするので、べべべっとバターを塗ってかぶりついた。
 デスクに戻ると、昨日買ったコーヒーシュガーの袋をじーっと見ているリョウがいた。
「ごめんねリョウ、今日は構ってる場合じゃないの」
 期待の袋を開け、昨日の氷砂糖のようにざっとデスクにあける。リョウはそれをほのぼのと眺めてから、胸の前で手を組み目を輝かせた。乙女か、可愛いなこんちくしょう。
 私は颯爽とPCのソフトを立ち上げ、商品紹介のコラムを書き始めた。


 PM12:00。
 〆切りオーバーしたコラムを全部片付けて、先方に送りつける。とりあえず一息。
 コーヒーシュガーの山は数が多いのか、まだまだ減る気配を見せない。
 リョウはというと、コーヒーシュガーを一心不乱に……といっても、ゆっくりゆっくり、舐めるようにかりりと食べてる。燃費がいいな。お財布が助かりそうだ。
 私のほうを全く見ずに食べる姿を見て、寂しいんだか癒やしなんだか、後者だな。
 さて、今日片付けるコラムの数は、あと六件。
 夕方には終わらないだろうから、やっぱり缶詰だ。
 携帯を確認すると、メールが一件。さっちゃんの無言メール。三〇分前。
《今日は行けそうにないよ、ごめんね><》
 メールを送信。まじで今日締め切りのコラムが多いのです。まじで。
 お昼はひもじくカップラーメンをすする。
 リョウは、私の食べているものにちょっと興味を示したのか、じっと私のほうを見た。
「食べる?」
 訊いてみると、リョウは胸の前でバッテンを作り、ぶぶーと首を振った。
「甘いものが好きなのね」
 今度はピンポンとうなずいてみせる。相変わらずこの効果音はどこから出ているんだろうか?


 PM3:00。
 PCに集中していて気づかなかったけれど、ローズが現れていた。
 ローズはコーヒーシュガーを集めて魔法陣のようにしながら、その真ん中に立って胸を張っている。誰に?
 視線を追ってみると、なんと先にはコーヒーシュガーをモヒるリョウがいた。
 ストライクゾーン広すぎでしょ!
 作業している私に求愛していたかは知らないけれど、もししていないのだとしたら、ルナの次にリョウのことが?
 ……いやいやいや。リョウは黒髪ちょんまげの立派な男の子だ。そりゃあだいぶおっとりしてるし着物を着てるけども、禁断の恋ってやつになっちゃうからダメでしょ。
 女の子のプリンはアウトオブ眼中だったのに、ローズの好みはよくわからない。
「……なんだかなぁ」
 と、何も無い空間からぴょこりんと誰かが出てきた。
 黒いノンスリーブに長い銀髪。ルナだ。
 ルナは出てくるときょろきょろとして、まず私にお辞儀をした。
「ルナ、こんにちは」
 挨拶すると、もう一度ペコリとする。可愛いなぁもう!
 それから、氷砂糖のビンの側に寄って、こちらをじっと見る。
「氷砂糖ね。いいよ」
 ビンを開けて、その蓋にいくつか大きめの氷砂糖を選んで乗せ、デスクに置いてあげる。ルナは感謝の意かまたペコリとお辞儀をして、蓋の横に座って氷砂糖をかじりだした。
 さて、ルナが登場したことにより動き出すのはローズだ。
「ああ、もったいないっ」
 ローズは、足下のすてきな魔法陣を壊し、氷砂糖とコーヒーシュガーを混ぜてバラの花を作り出し、ルナに向かってジャジャーンと胸を張った。
 昨日の氷砂糖の花もなかなかだったけど、色味がついた今日の花も美しい出来だと思う。ローズは器用さんだなぁ。キザだけど。
 相変わらず、ルナはローズのことをアウトオブ眼中であった。かわいそうな気はするけど、ルナはローズに引っかかってほしくない……気がする。


 妖精さんとの一日は、もう少し続くのであった。



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あとがき

 長くなるので、話数を切ってもうちょっと続きます。



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