PM6:00。
ローズはいずこかに消え、無音の空間にはかりかりかじじという効果音のみが響いていた。
【私と不思議な妖精さん 第七話
その二】
複数のテキストを添付したメールを先方に送信……終わった。今日のコラムは全部おわった!
お疲れさま私!
「うーーーーんっ」
手を組んで伸びをする。肩や背中の固まってたスジやら筋肉やらがミシミシとほぐれていく。
この瞬間が、売れなくてもなんでもコラム書いててよかったと思う瞬間だ。
同時に、ぐーうとお腹が鳴る。昼間カップラーメンじゃそりゃ腹も減るわな。今日の夜ご飯は何にしよう。冷蔵庫の中には何が入っていたっけか。
席を立つと、目の端に携帯の点滅が止まった。そういえば全然携帯開いてなかった。連絡なんてほとんど来ないから、いいっちゃいいんだけどね。
携帯を見る。すると通知通り、メールが入っていた。
《そっちにルナ行ってないすか?》
時間が二十分ほど空いて、もう一通。
《ゲームできなくて困ってるんすけど、ルナそこにいないすか?》
珍しい、さっちゃんからの内容があるメール。五時くらいに来てるから、大学の講義や野暮用が終わった後に送ってきたらしい。
さて、ルナはというと、一心不乱に氷砂糖をかじっている。隣にはコーヒーシュガーをかじるリョウもいる。
リョウなんて、朝の九時からずっとコーヒーシュガーひとすじだ。そんなに食べて太らないんだろうか? さすがに最初に作った小山は残りわずかになっていた。
ちなみに、バラの花は残ったままだ。
メールからするに、さっちゃん相当切羽詰まってるようなかんじだよなぁ。私からルナに言ってみよう。
「ルナ、さっちゃん呼んでるよ。帰らないと」
話しかけると、ルナは手に氷砂糖を持ったまま、ぶっぶーと首を振った。
「帰りたくないの?」
ピンポンとうなずく。
「なんで?」
ルナは、どこからか片手剣を取り出して、何度か振ってみせる。それから新しい氷砂糖を目の前に置いて、私をじっと見てからキラキラリンと飛び上がった。
「んー、敵を倒すと氷砂糖がもらえるの?」
ピンポンピンポン、と、ルナと、隣のリョウが首を縦に振った。
「やったぁ一発正解、じゃない! えっと、使われるのが嫌になって現実世界(ここ)に来てるんだから……つまり、戦うのも嫌で、ここではお砂糖がもらえるから帰りたくないってこと?」
もう一度、ピンポン! とルナが首を動かす。
同時に、携帯のバイブがびびびっと鳴り出した。これは電話だ。
『先輩、今家すよね? そこにルナいるでしょ』
さっちゃんだ。
「さっちゃんこそ今どこにいるの? ルナ帰りたくないって言うから、連れてくよ」
『……いつものところす』
ぷち、つーつー……メールも簡単だし、用件済んだら電話もすぐ切るんだから。
いつものところとは、喫茶店だろう。あそこ夜もやってるから、夜ご飯ついでに行くことにしよう。
「ルナ、リョウ、行くよ」
トートバッグに二人をつまんで入れる。リョウはおとなしかったが、ルナはめずらしくジタバタとした。本当に行きたくないらしい。
「一緒に来てくれたらケーキごちそうするからさ」
ピタっと止まる。この前のケーキが相当おいしかったらしい。
「よし、いい子」
コーヒーシュガーを数個入れた小さなビンを持って、私は家を出た。
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あとがき
妖精さんにとって、砂糖は魔石と同じようですね。