私と不思議な妖精さん 第六話
 夜。
 シャワーから部屋に戻ってきてみれば、また異様な状況になっていた。


【私と不思議な妖精さん 第六話】


 ほかほかで気分がいいところに、癒やしと呼ぶべき存在のルナをたぶらかす存在がいた。
 昼間買ってきた氷砂糖の袋が勝手に開けられていて、デスクの上は宝石の山のような状態になっている。ルナは、その傍らにできた小さな丘に座り、氷砂糖をかじかじとしていた。
 ルナの目の前に、まるで薔薇の花のように氷砂糖が並べられている。それを紹介するように手を向けて、胸を反らす存在。それが、ルナをたぶらかしている張本人だった。
 頭の上にコウモリを飛ばし、大仰なマントに黒い三段のフリルがついた服を着た、金髪オールバックのキザ野郎。名前はローズだ、今決めた!
 ローズの周りにキラキラと輝くエフェクトが、スポットライトでも当たっているかのように降り注いでいる、なんてことはない。
 ただ、そういう空気を作り出している。それだけは言える。
 対してルナはというと、ちらりとローズを一瞥したあと、すぐさま手元の小さな氷砂糖をかりかりとしだした。まさにアウトオブ眼中。
 しかしローズはそれに気づかず、じゃじゃーんとばかりに氷砂糖の華を捧げ続けている。
 なんだ、この状況は。
「別にいいんだけどさ、勝手に袋あけないでくれないかな?」
 とりあえず、話しかけてみることにする。
 するとルナは立ち上がり、手に砂糖をもったままペコリとお辞儀をした。うんうん、相変わらず礼儀正しい子ね。おねーさんそういう子大好きよ。
 ローズはというと、私を見た途端、氷砂糖の薔薇の向きをせっせと変えだした。あれ、この流れはもしや。
 じゃじゃーん! またもやローズにスポットライトが当たり、いや、当たってないんだけどそのように感じられ、胸を張ったローズは私にキザったらしく一礼した。頭の上のコウモリもパタパタと辺りを回る。
 これは、私に告白でもしてるのローズくん?
「いや、そういうのいいんで。間に合ってるんで」
 リアルに恋人なんてしゃれたモノはいないけれど、そこを拾われたかのようでちょっと、いいやだいぶムカつくことをしてくれやがりました。
「ちくしょうめーっ」
 とりあえず私は、ローズをつまんで明後日の方向に向きを変えさせ、氷砂糖を大きな瓶に詰めることにした。
 台所から空き瓶を持ってこよう。たしか徳用ジャムの空き瓶があったはずだ。
 お目当てのものを見つけて戻ってくると、事態はまた変わっていた。
 ローズはというと、やはりルナのほうに胸を張っていた。ここまでは先程の何も変わらない。変わったのは、第三者が現れたことだ。
 瓶を持ってデスクに寄ると、そこにはどこから現れたのかわからないプリンがいた。プリンは氷砂糖の薔薇を見て目を輝かせ、作った張本人であるローズにキラキラとジャンプしてみせた。めちゃ喜んでいるのだろう。
 しかしローズは、プリンのほうをチラとも見ずに、ルナへ求愛し続けている。
 プリンはきゅっきゅぅと地団駄を踏んだ。しかしローズはアウトオブ眼中だ!
 プリンは倒れて、じたばたとしてみた。しかしローズはアウトオブ眼中だ!
 プリンはめそめそと泣き始めた。しかしローズはry
「プリン、もう食べちゃいなよ」
「きゅーう!」
 べそをかいていたプリンは一転してコロコロと笑った後、氷砂糖の薔薇の花びらを一枚取ってみた。しかしローズはアウトオブ眼中だ。
 プリンは身体全体を使い、薔薇の花をくずさないようにそっと移動させる。私もみんなの邪魔にならないように、袋から大きく零れた氷砂糖を瓶に入れる。
 それぞれの作業が終わっても、ローズはルナしか目に入っていないようだった。ルナは相変わらずモヒモヒと氷砂糖を頬張っている。
 プリンは手に入れた氷砂糖の華をうっとりとした目で眺めている。よかったねプリン。どうせだからぜんぶ食べちゃっていいんだよ?
 三者三様な光景を横にして、私はノートパソコンを開いた。
 さて癒やしはこれくらいにして、私は私の仕事をしなければ!



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あとがき

 新キャラのローズくんはキザッ子です。
 周りのことが見えないタイプの情熱家なんです、たぶん!


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