私の不思議な妖精さん 第五話
「お前たち、勝手な真似をしてみろ。拘束ではすまさないからな」
「壁抜けなんて馬鹿な考えは慎むことだな」
 二人の衛兵にしっかりと監視され、三人は地下牢へと放り込まれた。



【私の不思議な妖精さん 第五話】



 しかし、体が光を放ったのはルナだった。
「マスターがお呼びのようです。では」
 何もない空間に消えていったルナを、衛兵もプリン達も唖然と見ていることしかできない。
「な……なんてザル警備だ……」
「お、お前たちは出て行くんじゃないぞ!」
 ローズの呟きに、衛兵の一人が顔を赤くした。
「わかってますよーだ」
 答えたのはプリンだった。プリンは唇をとがらせて、牢の奥で座る。
「で、ローズ。どーすんのよこれから?」
「これから考えるところだ、プリンよ」
 プリンに倣ってローズはあぐらをかいて座った。
「衛兵、私語は慎まなくてもよろしいかな?」
 ローズの問いに、衛兵は咳を一つ打っただけだった。
「良いようだな。さて……」
 ローズは腕を組んだ。
「レディに図られたのは予想外だったが、利点がひとつ、欠点が二つといったところかな」
「何よ、利点だ欠点だっていきなり」
「まあ聞け、俺の脳内整理に付き合ってくれ、プリン」
 プリンはいぶかしげにうなずいた。
「利点は、リョウに繋がる線としてアズが加わったことだ。リョウの行方を追うために、アズから情報が得られる可能性が高い」
「協力してくれたらの話だけどねー……それで、欠点は?」
「アズが現れる可能性が低いこと、俺たちが動けないことだな」
「それ、欠点ばっかりじゃない? アズの情報ってのに頼ってられないと思うんだけど」
 ローズがため息をつく。
「そうとも言うな……」
「だめじゃん」
「そうバッサリと切り捨ててくれるな、レディよ。ここまで考えたことくらいはルナも考えているはずだ。いつになるかはわからないが、おっと」
「な、何よ突然」
 ふと声を抑えたローズがプリンの耳に口を近づけた。
「ルナ達が助けてくれる可能性も、衛兵に隙ができる可能性もある」
「そ、そーね! そうかもね!」
 離れていったローズに、プリンはフンと鼻をならした。
「どうしたんだ、プリン」
「べっつにーぃ」


「つ、疲れた……」
 オクターヴァに帰ってきたはいいものの、いつもの子達が誰も見当たらないので、イキシアさんに頼んで火のクエストを周回していた。
 二本角に復讐を、まで斡旋してもらって、魔石を貯めて魔法が買えるようにがんばったのだ。おかげで、なんとか溜まった魔石を回復魔法に当てられそうだ。
 私は巨大な門の前でうーんと背伸びをした。
 同時に、横にいつもの影を認める。
「ルナ!」
「がらがらのお時間す」
「うん? ルナ、いつもと口調違くない?」
「……」
 ルナは一度キランと消え、再び現れた。さっちゃんが課金するだけにログインしたらしい。
 ルナは私に跪いた。
「このクレでさっさとがらがらの木にお祈りを捧げろ、とマスターが言っておりました。行きましょう」
「そうだね、行こっか」
「歩きながら、こちらでの出来事をお伝えします」
 私ががらがらの木に歩き出すと、ルナは私の右後ろにぴたっとくっついて、小声で話し始めた。
「まず現状ですが、ローズとプリンが城の地下牢に囚われております」
「えっ?! な、何したのあなたたち……?」
「アズに図られたのです」
「アズって、あの赤ずきんちゃん?」
 ルナがうなずいて、私は二度びっくりした。
 ローズたちがアズのせいで地下牢に? よくわからない展開だ。
「えっと、それで、ルナはなんで囚われてないの?」
「私はたまたまマスターが呼び出してくださったので、抜けることができました」
「なるほどね。プリンとローズのマスターには、さすがに心当たりないなぁ。あとで助けに行かなくちゃ!」
「それと、我らハンターとイーターの関係について、魔石の効果についての情報を得ることができました」
 歩きながら相づちを打って、話をうながす。
「簡単に申しますと、強いイーターは過去にイキシアの本に封印されたそうです。そして魔石は、集め溜め込むことにより神と同等の力が得られると」
「神さまと?」
「ええ」
「リョウはそれを狙ってるのかな?」
「わかりません。が、さらなる情報に心当たりがあります」
「心当たり?」
 イキシアの広場からショップ広場の階段を降りる。
「クエストの中で意味ありげな発言をするボスがいるのです。もしかしたら、封印されたことと関係があるかもしれず、さらに詳しいことを知っているかもしれません」
「ボス、って……強くて怖いやつ?」
「これからご主人様は強くなります。それに、戦いは私たちにお任せを」
 がらがらの木の前に辿り着いた。
「さあ、我らがご主人様。祈りを捧げてください」


 出てきたものをルナが選別してくれて、合成やらなにやらぜんぶやってくれたおかげで、私の見た目はとってもマトモなものになった。
 頭にはとげとげが五本ついた黒い冠を。身体にはローズが着そうな高貴そうなキルト生地の服を。
 そして武器は、音符の装飾が施された杖を。
「魔楽隊の式典杖です。一般的な杖と比べ、はるかに高い魔力を誇ります。必ずやご主人様の助けになりましょう」
「そんなに強いの? ローズの杖とどっちが強い?」
「同等でしょう。ローズの杖も強いですからね」
 そうだ、ローズで思い出した!
「二人を助けに行かなきゃ! ルナ、どうしよう?」
「あの二人なら勝手に壁を抜けてくると思いますが……ほら」
 ルナが目を向けた先で、こちら側に走ってくる影が見えた。
「いたいた! ローズっはやくぅ!」
「レディの背中を守るのは俺の役目だと、何度言ったら……」
 私たちの前に辿り着いた二人は、息を切らして私を見た。
「二人とも、大丈夫だった?」
「ああ。思いの外衛兵が簡単に眠ってくれてな」
「ローズがね、オルゴールを鳴らしたのよー!」
 私の心配はどうやら無用だったようだ。よかった。
「それはそれとして、あるじっ、すごくまともな装備になったのね! すてきよ!」
「流石は我らが主。どんな服も似合いますな」
「あ、ありがと」
 ほ、褒められ慣れてないから照れるんだけど!
「照れてるあるじ、かっわいいー!」
「わわわっ!」
 さらにプリンは抱きついてきた。衝撃によろけるもなんとか転ばないように耐える。よよよ妖精さんが私に抱きついてる!! あとでさっちゃんに自慢してあげよう!
「今度あたしの持ってる服でファッションショーしようよーあるじっ」
「ふぁ、ふぁっしょんしょー?!」
「こらプリン、我らが主がお困りだろう」
 襟首を掴んで引っ張らないあたり、やっぱりローズは紳士だなぁと思う。
 プリンの服の裾を摘まみ、ローズは咳払いをした。
「えー、きっと楽しいと思うのに」
「楽しむのは全てが終わってからにしましょう」
 ルナが話を引き戻す。
「私は、得た情報の裏を取るためにグランドソードに会いに行くことを提案します」
「えーっ、なんであのグラソ先輩に?」
 プリンが私から離れて座る。
「オーブーンやドラゴイールよりも、イーターの中では古参の臭いがするからです」
「なるほどな」
 話を引き継いだのはローズだった。
「確かに、俺たちのことをシャムロックと呼んだり、神々に恨みがあるようなことを言っていた気がする」
「そこです」
 ルナが剣をかかげた。
「タダで何かを教えてくれるとは思いませんが、これ以上の情報が無い以上、行かざるを得ないでしょう」
「そうだね」
 私も杖をかかげ、ルナの剣に合わせた。
 すると、プリンも杖を、ローズも大剣を、それぞれかかげて合わせてくれた。
「その何とか先輩ってのに、リョウの手がかりを聞き出すぞ!」
「おー!」
「そ、その前に!」
 私はすぐさま口をはさんだ。
「そのグランドソード? 強いんでしょ? もうちょっと戦い慣れてからいきたいんだけど……」
 私の言葉に、ルナがこくりとうなずいた。
「では、乾きの山あたりでしばらく経験を積みましょうか。魔法の使い方も覚えなくてはいけませんしね」
「うん。みんなも付き合ってくれる?」
「もちろんよっあるじのためなら!」
「よろこんでお供させていただく。我らが主よ」
 ありがとう、とお礼を言うと、みんなはキラキラリンと飛び上がった。
「イキシアさんにワープを頼んできます」
 ルナが颯爽と去っていく後ろ姿に、私は手をふる。
「よろしくねー!」
 さて、私は魔石を合成してこなきゃ!



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あとがき

 難産でした。


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