「ローズ、これだけ探しても手がかりひとつ無いなんて……」
「ああ、ルナ。これは国自体を疑わなければいけない可能性が出てきたぞ」
ルナの言葉に、ローズはひとつうなずいた。
【私の不思議な妖精さん 第四話】
※この話以降、四月九日時点の作者のKlee考察が含まれます。
原作イメージを壊されたくない方は、これ以降の話を読むことをお控えください。
オクターヴァ城の図書室にて、一行はオクターヴァの歴史やイーターのこと、魔石のことなどを調べる為に走り回っていた。
一時休憩に四人は今、ひらけた場所に集まっている。
「ここまで念入りに調べて、イキシアやタウンの住人に聞く以上のことは、残念ながら一切の記述がない」
「だからってローズ、なんで国自体? を疑わなきゃいけないのよ?」
「わからないのか?」
プリンに訊かれ、ローズは腕を組んだ。
「国の秘匿事項だと、故意に情報が隠匿されている可能性があるということだ」
「えーっそんなぁ!」
プリンはキュッキュッと地団駄を踏んだ。
「これだけ調べて何もありませんでした! じゃ、あるじになんて説明すればいいのよーっ!」
「図書室では静かにしないといけませんよ、プリン」
片手で本を開きながら、ルナが静かに言う。
「イーターの基本的な情報こそありますが、どこから来るのか、魔石を蓄える理由とは何なのか、わからない……」
プリンはルナに向き直る。
「そんなこと言ったってさぁ、ないものはなかったですーってわけにはいかないわよ。もう何日調べてるかわからないけど……」
躍起になっていたヘソ出し少女はしゅんとうなだれる。
「本当に、わからないのかなぁ……」
「あのぅ、みなさん。ちょっと気になることがあるのですが」
そこに、おずおずと緑色の古びた本を差し出したのは、赤ずきんことアズだった。
「この本、あたし読んだわよ。オクターヴァの言い伝えでしょ? むかしむかし、から始まる」
「そうなのです。そうなのですが、わたくし、見つけたのですわ」
「何を」
「ここを、ご覧くださいな」
アズはとあるページを開く。
「”こうして人々とイーターの魔石をめぐる長い戦いが始まります”。次のページは、”そして現在”……よね?」
プリンの言葉にアズがうなずく。
「ええ。ですが、ここ」
ここ、とアズは本の継ぎ目、ページの境目のところを指さした。
「何枚か切り取られたあとのようなものが……」
「何だと?」
反応したのはローズだった。
ローズは本を取り上げて、念入りに調べる。
「……確かに、切り取られた痕があるな」
「うっそ! 気づかなかった!」
プリンもローズの後ろからのぞき込む。
「言い伝えに、俺たちの知らない記述があるということか?」
「そうかもしれない」
ルナが相づちをうった。
「切り取られたページに、イーターと私たちの関係が書かれているかも。探そう」
「そうと決まったらさっそく、とっとっと、きゃあ!」
走りだそうとしたプリンが、つまづいて本棚にダイブする。
カチ。
「うん? 今何か音が……」
続いて、どこからか重いものが動くような低音が響いた。
「わわわ!」
図書室も揺れる。
カタカタとそこらじゅうから埃が舞い落ちる。
本も何冊かパタパタと床に落ちた。
「なに、なに?!」
「おい、あそこ……」
ローズが呆然と指をさし、一同はその先を見た。
階段を上った先の巨大な肖像画が横にずれ、奥にぽっかりとした空洞を作っていた。
「お約束といえばお約束だが、プリン、お手柄だ」
「お宝のにおいプンプン……じゃないっ、何か秘密がありそうじゃない?!」
揺れが治まると、プリンがキラキラリンと飛び上がった。
「そうね、言ってみる価値はありそう」
「こ、怖そうじゃないですか?」
身体を抱きしめるようにしたアズに、ローズはうやうやしく一礼した。
「大丈夫だレディ。君のことはこのローズがお守りしよう」
「はいはい言ってなさいよーだ」
「何か言ったかプリン?」
「べっつにーぃ」
いつものやり取りを背に、ルナは階段に足をかけ、ごくりとつばを飲んだ。
「……行きましょう」
長い通路を想像した一行だったが、全くそんなことはなく。
肖像画のとびらとでも言うのか、その先にあったのはとても小さな部屋だった。
倉庫とも形容できる箱やら樽やらが敷き詰められた部屋の壁に、申し訳ない程度に本が何冊か入った棚が置かれていた。
「見つからないように蓋をしておこう」
そう言って、ローズは杖に力を込め、部屋の入り口を隠すような氷塊を作った。
「屈折光によって、部屋が空いていたり中に人が居たりというのを見えなくした」
「さっすがローズ、こーゆーときは頭いいわね」
「一言余計だ、プリン」
プリンとローズの会話を横目に、ルナは箱の上の埃を手で払い、そっと開ける。
「これは……!」
中には、キラキラと輝く石がぎっしりとつまっていた。
「すごい、魔石の宝物庫よ、ここ!」
プリンが目をキラキラと輝かせる。
「いくつかくすねていこっかなぁ」
「だから君はレディと呼ばれないんだ」
「じょ、ジョーダンよ。ほら、本もあることだしっさっそく調べましょ!」
一行はプリンの言葉通り、数少ない蔵書を調べだした。
すぐに声を上げたのはローズだった。
「魔石の貯蓄率のグラフ。……一体何百年前のものだ?」
「こっちはイーターとの戦歴です。これも何百年もの昔の出来事だと思います」
ルナが続く。
「戦歴を見るに、イーター軍に押され、乾きの山や滴る山での戦績は負け続きのようです」
「えっ、今は楽勝なのに?」
「昔のイーターは強かったのかもしれませんわ」
プリンの驚きに、アズが答えた。
「ありましたわ。先程の本の切れ端」
「見せてはくれないか、レディ」
「もちろんですわ」
アズからページを受け取ったローズは、息を飲んだ。
「これは……!」
「何と書いてあるのです?」
ルナも覗く。
「”イーターのあまりある暴挙に、人々は祈りを捧げました。祈りを聞き届けた神々は、神の使いを遣わしました。神の使いは人々に、魔石の本当の使い方を教え、暴れるイーター達をその土地ごと、力ある本の中に封印しました”」
「イーター達が、封印されている……?」
ルナが驚きの声を上げる。
「では、私たちが今まで戦っていたイーター達は、イキシアさんの周りに浮いている本の中に封印されていたということ?」
「そう……なるな」
ローズも絶句しながら言葉を紡いだ。
「魔石の貯蓄量のグラフだが、一度は減少の一途を辿っていたが、ある時を境に急激に増加している。戦歴のほうはどうだ、ルナ?」
「ページの話が本当であれば、安全に戦えるようになった筈で戦績も……実際、上がっています」
「驚くのはまだ早いわよ」
震える声で言ったのはプリンだった。
「この本に書いてあるの……”魔石は、神々の力が宿る石。其れを体内に納めるイーターも、神々と同等の力を有す者なり”って」
「ちょっと待って」
ルナが言った。
「それでは、魔石を集めて捧げれば神々が復活する、ということに疑問が生じます。捧げずとも、膨大な魔石を蓄積すれば、誰もが神と同等の力を得られるということでは?」
「その通りですわ」
艶やかな声が自信ありげに答える。
三人が振り向くと、入り口の氷を杖で溶かしているアズが居た。
「やはり、リョウ様の言っていたことは正しかったのですわ」
「リョウ”様”? アズ、リョウのこと知ってるの?」
プリンが驚く。
「知っているも何も、わたくし、リョウ様の下僕でございますもの」
「何だと?」
ローズとルナは狭い部屋の中で距離を取り、それぞれ武器を構える。
「リョウ様は仰いましたわ。魔石をため込めばいずれ、自分の願いが叶えられると。あなた方についていけばその真偽が判断できると思い同行させていただきましたが、思ったよりも収穫が大きくてわたくし大満足ですわ」
「あんた、あたしたちを利用したっての?!」
「従順で寂しげで儚げで、いい芝居が打てたと思いますわ」
「あんたねぇ!」
「まぁまぁ」
氷が溶けきって、アズは部屋から躍り出た。
「怖いですわ! 誰か、助けてくださいまし!」
「なんてことっ、逃げないと!」
ルナがいち早く反応して、部屋から出ようとする。
しかし、時既に遅し。
「盗賊だ! 衛兵、集まれぃっ!」
アズが走り去っていく後ろ姿に挟まれて、衛兵が数人で部屋を囲む。
「く、仕組まれたか……!」
ローズがくやしそうにつぶやく。
「武器を捨てよ! 抵抗すれば痛い目にあうぞっ」
「ち……逃げようがない」
ルナは舌打ちをして、武器を下ろした。
アズの姿はもう見えなくなっていた。
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あとがき
妖精さん一行は捕まってしまいました。
さて一体どうなるのでしょうか?