私が不思議な妖精さん!?第三話
「なになに、実力を見せてみろ?」
 イキシアさんのクエストブックを見せていただいて最初に目に付いたのは、古参ハンターからの挑戦状だった。



【私が不思議な妖精さん!?第三話】



 イキシアさんに、靜かの木立なる場所にワープさせてもらう。すると、比較的平坦な道に出た。森の中を切り開いたような場所で、せせらぎの先に首が痛くなりそうなほど高く太い木が何本も生えている。
 道の端には、樽がいくつか置いてある。
「お」
 さっそく破壊対象だ。練習用の剣で数回殴ると、音をたてて壊れる。中からは……何も出ない。
「しけてるなー」
 何個か樽を壊すと、小さな銅色の宝箱が飛び出してきた。
「お!」
 開けようとしてみるが、どうやって力を入れても開きそうにない。
「ちぇー……うん?」
 よく見ると小さな鍵穴があった。鍵がないと開かないのか。ぐぬぬ。
 ひとしきり樽を壊して、一息つく。
 あれ、クエストの内容なんだったっけ。えーっと、たしか、ペケブンを倒して生きて帰ってこい、だったっけか。
 ちょうど、目の前をテケテケと歩いてく輩がいた。茶色のヘルメットに緑色の肌。間違いない、喫茶店で見たあのにっくき! シフォンケーキを台無しにした憎きペケブンだ!
 いや、本人かどうかなんて知らないんだけどさ、見た目同じじゃん?
「ケーキのかたき! 覚悟ぉおおおおっ」
 えいやっと剣を振りかぶり、私はペケブンに突進した。
 剣は見事にペケブンの頭にダイレクトヒットし、衝撃にペケブンがのけぞる。
「せいっ」
 つづいて剣を横に払う。今度はべちっと右腹に当たった。ペケブンは最後の力を振り絞って、小さなナイフを掲げて威嚇してくる。
「えーいっ!」
 片手剣を両手で持って、ラストインパクト! 切れ味のいい剣だったら胴体を真っ二つにするような剣戟で、ペケブンはうつ伏せに倒れ、しゅんと消えていった。
「よっしゃ、勝った! ケーキのかたきは取ったぞ……ふっ」
 一人で決めゼリフ。うん、かっこわるい。
 それに、ペケブンは一体だけじゃなかったらしく、どこからともなく二匹目、三匹目が出てくる。
「に、二対一とは卑怯なっ」
 それでもお構いなし、ペケブン達は私に向かってテケテケと走ってきた。
「やるしかない、か……!」
 だからかっこわるいって、っていうセルフツッコミをしながら、灰色スカートの裾をひるがえして、私は本格的にペケブン討伐をはじめた。


 何体倒したのかやっぱり数えるのをやめた私。
「うわ! いったいなぁ、もうっ」
 背中をナイフで切りつけられ、服に風穴が開く。幸い切れ味わるい得物だったようで、肌まで至らなかったようだけど、ぶつかったものは痛いのだ。
 振り返りざまにバックステップを取るが、
「おっとっとととと、わぁ!」
そんなにうまく行くはずもなく、こけておもいっきり尻餅をついてしまう。
 三体同時にペケブンが刃を向けてくる。やばい、痛いのは嫌いだ。
 とっさに左腕の小さな盾をかまえ、三者三様の攻撃をしのぐ。
 と。
「そう、その調子」
 後ろから涼しげな声がして、目の前のペケブンが倒れる前に煙となって消える。
 目にも止まらぬ早業を繰り出したのは、なんと。
「ルナ!」
「私の名前を知ってるの?」
 不思議そうに小首をかしげる、いつもの黒い服を着たルナ。私は立ち上がって、思わずルナの手を両手で取る。
「私! ゲームの外で氷砂糖をあげてた人間!」
「なっ……!」
 ルナはさっと私から身を離した。えっ私そんなに気持ち悪かったかな?!
「なんで氷砂糖のことを! オクターヴァのハンターはほとんど知らないはずなのに」
 気持ち悪いわけじゃなかった、よかった。
「なんでって、私があげてたからだよ。ほら、喫茶店でケーキもごちそうしたし」
 すると、かまえてた剣を背中にしまい、ルナは私に向かって膝をついた。
「ご主人様とはつゆ知らず、とんだご無礼を」
「ご主人さまあ?!」
 私の驚きに、ルナはこくんとうなずいた。
「私たちの間では、神の復活された世界に住まうご主人様とお呼びさせていただいておりました」
「神が、なんだって?」
「そちらの世界では、私たちに無い感情を表現する力、表情がおありですので……神は復活されていないのですか?」
 不安げに尋ねるルナの背後に、大きな影。
「ルナ、後ろ!」
 慌てたのは私だけ。
「ご主人様には触れさせないよ」
 クールな一言と共にルナは、赤くて大きなペケブンの親方を一刀両断の元成敗した。
 ころんと落ちる大きめな金の宝箱と、一本の鍵。
 あ、あっけなさすぎる。どんだけ強いのルナ。
「かっこいい……!」
「よかったら使ってください、ご主人様」
 箱と鍵を拾って、ルナは私にさしだしてきた。
「あ、ああ、うん……ありがと」
 小さな鍵を使って金と銅の宝箱をそれぞれ開ける。銅の宝箱からは緑色のコインが数枚、金の宝箱からは、緑色の蔦が絡み合ったような棒……どうやら武器のようだ。
「それ、アイビースタッフですね。魔力も高く、扱いやすい杖です」
「そうなの?」
「ええ。これから使っていくといいでしょう。それよりも……」
 ルナは私を上から下へと流し見て、こほんとひとつ咳払いをし、顔を逸らした。
「初期装備ではこの先保ちませんので、がらがらの木に祈りを捧げたほうがよさそうですね」
 私も自分の格好を見る。あーあー、どこもかしこもナイフで刻まれてボロボロだ。
「がらがらの木……赤ちゃん泣き止んだりするの?」
「あ、いえ、そういった機能は無いかと思われますが」
「そうか。実際に見たほうがはやそうだなー」
 気がつくと、さきほどボスらしきペケブンがいたところに、光の柱があった。
「案内してくれる? ルナ」
「ご主人様のご用命とあれば」
「はは、そんなに堅くなくてもいいんだけどなぁ」
 足音も立てないようなすらりとした動きで、ルナは光の柱に入っていった。
 私も後に続く。
 少しの浮遊感をおぼえて、私たちはオクターヴァへと帰還した。



-----+---+---+-----
あとがき

 ナチュラルに妖精さんと話しができる主人公でありました。


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