私が不思議な妖精さん!?第四話
「レストラン?」
「ええ。神の復活された世界で生活されていたなら、空腹感がおありでしょうから」



【私が不思議な妖精さん!?第四話】



 いらっしゃいませ、とうやうやしく挨拶されて、私とルナはレストランareaへ入った。
 レストランareaは、城に併設されている。すなわち内装も絢爛豪華……かとおもいきや、比較的入りやすいおしゃれな喫茶店のような雰囲気だった。
「せっかく正装してきたのに残念だなぁ」
「ボロ布ごときにご主人様の身を守られては困りますから、いいんじゃないでしょうか」
 クエストから戻った私たちは、がらがらの木なる神聖らしい木にお祈りをしにいき、装備を調えたのだ。
 イキシアさんから虹色のコインを三枚もらっていたので、それを木に捧げる。すると、木の中にある丸いカプセルが、コインの枚数分出てきた。
 全部で三つ。
 一つ目は柔道着とアラビアンを足して二で割ったような、青い服。腰辺りの月を模した装飾が堅く、お腹をよく守ってくれそう。
 二つ目は目元まですっぽりと覆い隠しそうな帽子。ひらひらがついていて、なかなかおしゃれだけども前が見えないから後ろにずらしてかぶった。
 三つ目は、片手剣フィロソフィーソード。銀色の刀身が、なんだか切れ味よさそうだ。
『片手剣と杖を使い分けていくと戦いやすいですよ』
 ルナの言葉を思い出しながら、私たちは丸いテーブル席についた。
 半月型のメニューを開くと、アラカルトメニューやコースメニューがずらりと並んでいた。Klee語で書いてあるけれど、私も妖精さんの見た目になったからなのか、内容がなんとなく理解できる。
「ルナ、どれがおすすめ?」
 あまりに料理の数が多いので、ルナに訊いてみる。
「そうですね、体力をつけたいならイール丼、魔力を高めたいなら三種のタックンのパスタでしょうか」
「ふむふむ、なるほ」
「areaといえばコース料理だろう」
 なるほど、と言おうとしたところに、第三者が介入してきた。ハスキーな声で割って入った人物は、私の座っている背もたれに手をかけて、きざったらしく前髪を掻き上げた。
「我らが主(あるじ)よ、こんなところにいたんだね」
「ローズ!」
 金髪オールバックのローズは今、青いキルト生地の高貴そうな服を着ていた。
「そんな大衆料理ばかりを勧めてはいかんよ、ルナ」
「……これからコースの説明をしようとしていたところです」
「ふむ、そうなのか?」
 手を二回叩き、
「オーダー」
ローズは丸テーブルの空いている席、私の右隣に座った。
「スペシャルコースを三名分、すぐに用意したまえ」
 給仕は慌てて言葉を紡ごうとしたけれど、それよりもローズのほうが早かった。
「夜のコースなんて野暮なことは言うまいな? この街(ここ)には朝も夜もないだろうに」
 すぐに確認してまいります、というウェイトレスのお姉さんに、ローズは最後の追い打ちをかけた。
「料理長に伝えてくれたまえ。”ローズの注文だ”とな」
 すると、メイド服姿のウェイトレスさんの目の色が変わった。
「ローズ様でございましたか! 大変失礼いたしました!」
 周辺の空気がざわついた。お客さんや他の給仕の人たちがいっせいに私たちを見て、そしてしんと静まりかえった。
「ローズ、あなた一体ナニモノなの?」
 私の問いに、ローズは何食わぬ顔で髪を掻き上げた。
「なに、ここの料理長にはずいぶんと世話になっているだけさ」
「そ、そうなの……」
 きっと逆の意味なんだろうな、と考えながら、普通の空気に戻っていくレストランを見まわす。カウンター席もあったりして、やっぱり庶民的なかんじだ。
「お待たせいたしました、前菜の、オクターヴァ産鮮魚のカルパッチョです」
「下げて良し」
「ええっ?!」
「ローズ、下げて良しって、まだ食べてないけど!?」
 きれいに盛りつけられた薄造りの白身が、テーブルに乗ることなくすごすごと下げられていく。
「いいのだよ、主」
「いいのだよ、って……」
 次の料理は、ローズの下げて良しを予想していたかのようにすぐに出てきた。
「スープをお持ちしました。滴る山産の山菜……」
「下げて良し」
「これも?! ねぇ、ルナ」
 何とか言ってよ、と視線を送るも、ルナはじっと背を伸ばして座っている。
 いい匂いのする湯気の立ったスープ。ああ、汁物だいすきなのに……。
 その後のメイン二品も、ローズの一言によって下げられていく。肉、主食が……ああ。
「コース最後のお料理です。靜かの木立産紅茶葉のシフォンケーキ、オクターヴァ産レッドフレッシュソース添えです」
 ローズを見る。ローズはじっとテーブルを見て何も言わなそうだった。
 ルナを見る。ルナの目は、輝いていた。
 テーブルに三枚の皿が乗る。丸い皿の上で、半月型に切り取られた紅茶葉のシフォンケーキが、私を食べてと言わんばかりに主張していた。周りの赤いソースもきらきらとしていて、ケーキの上にはちょっと黄色がかったジェラートがとろんと乗っかっていた。
 ローズが、フォークとナイフをそれぞれの手に持った。ルナもそれに続いたので、私も手に取る。
 ローズは、ふ、と息をついた。
「最高の贅沢とは、コースのデザートのみを食すことだ。……いただきます」
「いただきます」
「いっただっきまあああす!」
 めっちゃおいしそう!
 いままで数々のおいしそうな皿を見過ごしてきた私にとって、目の前のデザートはまさに最高の贅沢。最高の皿になっていた。
 ナイフで切り、一口ほおばる。ぴりりとスパイシーで薫り高い紅茶の風味が、鮮やかに鼻を抜けていった。
「おいしい!」
「でしょう、ご主人様。ご主人様の世界のシフォンもたまらないですが、コースのデザートでしか食べられないこのシフォンも絶品なのです」
「ルナ、ずるいぞ。俺も主の世界のシフォンを食したい」
「あはは……まずは私が人間に戻らなくちゃ」
「今のお姿もヒジョウにステキですよ、主」
 私の言葉に、早くも食べ終わったローズが膝をつき、私に一輪の薔薇を差し出してくる。
「どうですか、この後一緒に海を眺めにでも」
「ご主人様はこの後魔石集めに勤しまなければならない身。抜け駆けは許さないよ、ローズ」
「魔石集めとな?」
「うん」
 ジェラートの乗った最後の一口を残して、私は一息ついた。
「魔石を集めてここの神さまを復活させれば、願いをかなえてもらえるんでしょう? それで私、人間の姿に戻してもらおうと思って」
「なるほど」
 ローズは私の帽子に薔薇の花を刺して、立ち上がった。
「それならばこのローズ、主のために杖をかかげましょう」
 背中から、青い星のついた大きな杖を取り出し、文字通りかかげてみせる。きらきらと光の集まっていく様子は、その杖の魔力が高いことを現している、ような気がする。
「ルナ、君も手伝いたまえ。主の願いを叶えるぞ」
「言われなくてもそのつもり。マスターに使われていない時間は、ご主人様に捧げましょう」
 ルナも席を立ち、私に再度ひざまづく。
「ああ、あの、その、恥ずかしいからやめて……!」
 私は赤面を両手で覆い隠すことしかできなかった。
 こーいうの苦手なんだってえええ!


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あとがき

 ローズさん登場。
 アラカルトでデザートだけ頼めばいいじゃんというツッコミは、ヤツには通用しないのです。




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