私が不思議な妖精さん!?第二話
 どどど、どうしよう。
 とりあえず自分の姿を確認させてください!



【私が不思議な妖精さん!?第二話】



「妖精さんだ……」
 見事に、なにをどう言おうと、どう言い繕うとしても、妖精さんだった。
 何やら大層なお屋敷、お城? の前の噴水を鏡がわりに拝借して、私は重いため息を吐いた。
 何をどうしたらこうなるんだ。人間、だったはずなんだけど、今まで。
 というか、ここってもしかしてもしかしなくても、くれーってゲームの中じゃないのか?
「どうやって帰ればいいんだ……!」
 ああ、絶望だ。のかな?
 コラムの仕事はとりあえず一段落してたからいいとして。いや、よくない!
 どうやって来たかもわからないのに、どうやって戻るかなんて判るはずがない。
 というかリョウは大丈夫だったんだろうか? いきなり人が変わったようになっちゃったリョウ。ルナもルナで、強いのは知ってるけど、相手があのリョウだから心配だ。
「どうしたのですか?」
 同士討ちとか……やだ、なんてことを想像してるんだ私は。
 ただでさえ可愛い妖精さんたちが同士討ちとか、メルヘンぶっ壊れじゃないか。
「あの……」
 それに、リョウの黒いモヤモヤが気になる。他の子はあんなのなったことないのに。
「もしもし?」
「今考え事してるんでやめ、て、くれませんか……?」
 しまった、強く言いすぎた。途中から蚊の鳴くような声になっていく自分が惨めったらない。
「それなら僕もよくするよ。いつも周りを置いてきぼりにして、自分でもいけないと思ってるのだけど」
「へ……?」
 顔を上げると、妖精さんにしてはちょっと雰囲気の違う男の子がそこに居た。
 アンダーリムの黒縁眼鏡に、すっきりとまとめた黒髪。物腰の柔らかそうな人だ。細身にガッチリとした軍服っぽい青コートをまとっている。
「形相を変えて走る貴女の姿が見えたもので、つい珍しく……いえ、心配で追いかけてきてしまったよ。僕はトニック。大丈夫かい?」
「あ、あの、その、大丈夫、っちゃ大丈夫です」
「そんなに緊張しなさらないで。オクターヴァでは神と王以外、誰でも平等だよ」
「そうなんですか……あの、神さまと王様がいるんですか?」
「それを知らないということは、貴女は新人ハンターだね?」
 質問を質問で返されてしまった。私もだけど、この人も人の話を聞くようで聞かないのか、好奇心が旺盛なのか。
 新人ハンターとは? 私が答えないのを、彼は質問と受け取ったらしかった。
「ここオクターヴァでは、月で眠られた神を復活させるべく、魔石を食らうイーターから魔石を取り返す役目を持つ職業があります。それがハンター」
 トニックさんはくるりと後ろを向いて、小さなアーチから続く階段を降りていく。
「こちらへおいでなさい。貴女を導くに相応しい方を紹介するから」



「キミはスジがいいなぁ! それ、もう一体粉々にしてくれないか?!」
 スジがいいと言い続けられてはや数時間。もう何体大きな樽みたいな手作りペケブンを粉砕したのか数えるのもやめていた。
「ほら、がんばれ! そいつを倒したら試験は合格だ!」
 諦めたら試合終了だぞ、とでもいいそうなあの熱心な方が、ウェルテおにーさんだ。トニックさんより筋肉質で、黒を基調としたスマートな服を着ている。
 トニックさんに新人ハンターだと紹介されるやいなや、私の手を握ってイキシア? というお姉さんにワープさせられ、気がついたら汗水たらしながら木で出来た片手剣を必死に振っていた。
「どうした、これくらいできないと実戦には移せないぞ」
「ちょ、っと、待ってください……! ただでさえ運動音痴なのに、いきなりこんなハードワークさせられても困ります。インドア派なんです!」
「それでも新人ハンター志願者の端くれか! もっと熱くなれよ!」
「言うと思ったよこの修造もどきめ!!」
 肩でぜーはーと息をしながら、今までのよりひときわ大きい手作りペケブンを殴りにかかる。頭のほうを叩くと、腕までしびれが走る、が、ここで諦めたらいけないのだ。
 もはやヤケだ。片手剣を両手で持ってさらに何発か力任せに殴ると、つなぎ目のところがほつれ、板がバラバラに散った。
「やった……おわった……!」
「よくやったぞ、新人!」
 ウェルテさんが近づいてきて、私の肩をバシバシと叩く。い、痛い。
「これで、偉大なる使命を背負うに相応しい実力となったわけだ」
「偉大なる、使命……?」
 えっへん、とウェルテは手を腰に当て、得意げに話し出した。
「キミはこれから、眠る神を復活させるために、イーターから魔石を集めるんだ」
「えっ」
「えっとはなんだ。オクターヴァに来たのはそれが理由だろう?」
「たしかにトニックさんにも言われましたが、……その」
「なんだ、はっきりしろよ」
 困った。いきなりここに居たんです、じゃ説得力も何もない。
 なにか、いい案を……そうだ、さっきちらっと見えたけど、オクターヴァに海あったな。海、うみ、みう……!
「み、身売りです……!」
「そうか……っ、それは、言いづらかったな。聞いて悪かったよ」
「そうよ! レディーにむかってなんてこというの、ウェルテ」
 どこからともなく声が聞こえ、ウェルテは肩をすくませた。
「い、イキシア! きいてたのか?」
「本の中のことはなんでもお見通しよ。悪かったわね、新人さん」
「いえ、大丈夫です」
「バカなことやってないで、やること終わったら出てきなさい。本の管理も大変なのよ」
「あいよー」
 ウェルテさんは気のない返事をして、冗談交じりに笑った。
「ったく、相変わらずキツいねぇ」
「ウェルテさんがしっかりしてないだけじゃ」
「何か言ったか新人?」
「なんでもないでーす」
 先程壊した樽おばけのところに、人一人分ほどの太さの青い光が上に伸びている。
「じゃ、お先に失礼するぜ」
 ウェルテさんは、イキシアさんが用意したらしいその光の柱に入っていって、シュンと消えた。私も後に続く。
 細かな光がキラキラとしていて、きれいな柱だ。わずかに鈴が鳴るような音が聞こえるあたり、めっちゃメルヘンな感じ。
 中に入ると、ちょっとした浮遊感のあと、初めてオクターヴァに来たときの場所に戻ってきていた。大きなクローバーが描かれている門が見える。
『ねえ、ちょっといいかしら?』
「わぁっ」
 頭の中に直接声が響いて、思わず私は尻餅をついてしまった。
『びっくりさせてごめんなさいね。私よ、イキシアよ。あなた、いきなりここへ来て困ってるんじゃない?』
 イキシアさんは、私のいきさつを知ってるのかな?
 不思議な人だとは思ったけど……。
『さすがにどうやって来たか、そしてどうやったら戻れるか、なんて知らないわよ』
 考えてること読まれてる?!
『そうね、あなたの頭の中に直接話しかけているから……ええ。でも、神を復活させることができれば、元に戻してもらえるかもしれないわよ? きっと何でも願いを叶えてくれるわ。
 そうでなくても、しばらくゆっくりしていったらどうかしら。なかなか住み心地のいい街よ、オクターヴァ』
 住み心地いい、ねぇ。
 そういえば、周りは妖精さんだらけである。
 これはもしや。
「ハーレム?!」
 そうだ、ここは癒やしの空間オクターヴァの中なのだ!
 癒やしが欲しいと思っていた毎日に妖精さんが現れて、それだけでも相当な癒やしだった。ここにいれば、原稿もやらなくていいし、ハンターやってれば三色宿付きも夢じゃないかもしれない!
「イキシアさん、しばらくお世話になります!」
『お返事が早くて助かるわ。これからよろしくね、新人さん』
「こちらこそよろしくお願いしますー!」
 簡単に返事をしてしまったけど、まあいいでしょ。
 難しく考えることをやめて、私はしばらくオクターヴァの住民をやることにしたのだった。
 ーーなかなかなハードワークだったことを忘れて。



-----+---+---+-----
あとがき

 トニックさんウェルテさんイキシアさんは完全なる妄想です。
 苦情受け付けます。



prev next
top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -