あれから約ひと月。
今日も私たちは妖精さんに癒やされていた……のだが。
【私が不思議な妖精さん!?第一話】
穏やかな昼下がり。比較的おされな街角にある喫茶店で、私とさっちゃんはランチタイムを楽しんでいた。
「さっちゃん、食後のコーヒーもらおうか?」
「んー」
「マスター、コーヒー二つお願いしますー」
「かしこまりました」
遠くでマスターがうなずく。
「……、なんでこの時間に……」
さっちゃんはいつも通り、Kleeに勤しんでいた。お昼のゲリライベントが始まって、食後はゆっくりしたいだろうにそうはいかないらしい。
私はというと、机の端で持ち込みのコーヒーシュガーをかじる和装のリョウと、リョウの横でこれまた持ち込みの氷砂糖をかじっているプリンを眺めていた。
リョウは喫茶店のマスターが使ってるキャラらしいから、仕事中でゲームはさすがにできないんだろう。私が家を出る前からずっと現れていて、ずーっとコーヒーシュガーのトリコになっている。
一方プリンはというと、主の呼び出しがかかったらしい。二、三度じだんだを踏むと、点滅しだした身体を宙に投げた。現れた黒いゲートに腰をつっかえ、フリフリとお尻を振って自ら押し込む。これも、だいぶ見慣れた光景になった。
「はい、ホットコーヒー。お姉さん今日も精が出るね」
「うす」
よほど夢中なんだろう、私にいうのと同じようにマスターに返事をしてる。
「マスター、今は何のイベントをやってるんですか?」
マスターは湯気のようなおっとり感でにこっと笑った。
「今はね、強化イベントかな」
「石が、足り、ないんす」
「石って、ませきのこと?」
「装備を強化できる石のことだよ」
私の質問にはマスターが答えてくれた。
「普通に強化するよりもたくさん強くなってくれるから欠かせないんだけど……お姉さん、強化イベ出るの珍しいんじゃない? もう出なくてもいいくらい強いでしょうに」
「最近決闘の攻撃鉄引いて、育てなきゃと」
「うんうん、そうなんだぁ」
やばい、なに言ってるのか全然わかんない。
「金箱出るといいね、お姉さん」
「うす。ありがとうございます」
謎の会話を終わらせ、マスターはカウンターへと戻っていった。
「ふぅ……」
外とリョウを交互に眺めながらゆったりまったりしていると、さっちゃんがスマホを置いて息を吐いた。
「終わった?」
「豊漁す」
「豊乳?」
「いちいちディスるのやめてもらえますか、職業不定先輩」
「聞き間違えただけでこの言われよう……」
話しているうちにぴょこんと出てきたのは、今までさっちゃんが操作してたルナだ。
「マスター、シフォンケーキください」
最近ちょっとコラムの仕事が多くてお小遣いも増えたので、今日は奮発しちゃおう。といっても全部だとさっちゃんに怒られるので、半分、ルナにあげるのだ。
「こんにちは、ルナ」
いつもの黒装束で出てきたルナは、私のほうを見ると手を振ってからペコリとお辞儀した。続いて後ろのさっちゃんにも手を振って、テーブルは私側の定位置に着くと座る。ケーキを待っているのだ。
「最近シフォンケーキの売れ行きが良くて。お姉さん達のおかげだね」
マスターが可愛い絵が描かれた皿にケーキを乗せて持ってきてくれた。テーブルに置かれると、ルナがキラキラとした目でそれを見つめる。
リョウはというと、何も気にせずコーヒーシュガーをもひっていた。
マスターが後ろを向いた瞬間、ルナがケーキにかぶりつく。私はルナを邪魔しないように、半分のところで切れ込みを入れた。ここまで食べていいよ、の境界線だ。
「さて、私もデザート! いっただっきまー」
す、は、言えなかった。
べしゃ、と目の前で潰れるシフォンケーキ。いつしかのデジャヴか。
いや、今回は潰した相手が明らかに違った。
ルナがサッとケーキから離れて、きらめく片手剣を構える。
私たちのケーキを潰したヤツら。三体まとめて出てきたのは、茶色いヘルメットに目を隠したような、二足歩行の怪人めいたやつだった。大きさはルナより小さく、明らかにルナたちと違う緑色の肌をしている。
怪人はまるで滑り台を降りるかのようにシフォンケーキから滑り降りて、悪役がするように自分のナイフについた生クリームを舐め取った。それから三匹で円陣を組んでなにやら話し出すと、くるっと私たちのほうに振り向き、それぞれ手に持ったナイフを振り上げた。
「ペケブンす! kleeのザコキャラすっ、なんでこんなところに」
「なんでは私がききたいよっ! ルナ、やっつけちゃって」
「あーっウチのセリフ取らないでくださいよ先輩っ」
私の言葉に、ルナはピンポンとうなずいて机上を走り出した。
ルナに気づいたペケブンたちも、三者三様にルナに飛びかかろうとする。
ルナの懐に入ろうとしたペケブンに、逆に素早く潜り込んだルナが、斜めに二回剣を捌く。瞬間、ぱっと散ったのは血ではなく、何かキラキラした石のようなものだった。
ぐえ、と言って倒れ込んだペケブンを避けて、次の獲物に標準を定めるルナ。
「いけ、そこす!」
さっちゃんの応援がルナに届いたのか、ルナが腰を深く落とす。
叫び声を上げながら突進してきたペケブンの正面に剣を構え、すれ違いざまに横腹に沈めた。動きが止まるペケブン。やあっという声と共に身体から剣を引き抜くと、やはりキラキラした何かが吹き出した。
飛び散ったキラキラの石を残して、薄い煙をふいて消えるペケブンの身体。残るは一体。
私たちが何を言うまでもなく、ルナは、ええいっと最後のヤツに斬りかかった。
が、しかし。
ギンッと刃同士が当たる甲高い音がして、ペケブンはルナの剣戟を逃れた。
「えっ?!」
声を上げたのは私とさっちゃん。ルナは襲い来るすさまじい重量の剣を間一髪で避け、飛び跳ねて距離を取った。
ペケブンとルナの間に割って入ったのは、なんとリョウだった。振り切った大剣を構え直すリョウからは、何やら黒いもやのようなものが立ち上っている。
「リョウ、どうしちゃったの?」
焦って出してしまった私の指を避け、リョウは私に大剣を振り上げる。
やばい、指一本持ってかれるかも。
そう思った私は、目をぎゅっとつぶって来る衝撃に備えようとした。
指先にピリリとした感触が走る。
……しかし、ぜったい痛い衝撃は来ることなく。
ーーふいに、柔らかな風が肌を撫でた。
「あ、あれ……?」
つぶやいた声は、やけに高い。
慌てて私はまぶたを開けた。途端に目に差し込む強い光。
手でツバを作って光を遮るようにして、薄目を開けて前を見る。
前には、緑の絨毯と昇り階段、大きな門。
すれ違っていく、自分と同じ背丈の妖精さんたち。
「えっ……えっ?!」
思わず自分の姿を見る。なんてみすぼらしい灰色のワンピース。
中東のようなメロディが聞こえてきたと思ったら、妖精さんが踊っている。いつものだ。
キラキラリン、と音がしたと思ったら、妖精さんがバンザイして飛び跳ねている。
うおぅ、これは、もしや。
「妖精さん、なう……?!」
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あとがき
再び始まりました、Klee二次小説であります。
前より更新は不定期になるかと思いますが、どうか温かい目で見守ってやってください。感想も募集中です。