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ああ、ずっとこうしたかった。
想像通りの温かさと柔らかさに、何だかほっとする。


「な、ななななななにしやがんだお前っ」

「何って、抱きついてるだけだ」


ウスターが可愛いからいけない、と付け足してやれば、彼は押し黙って行き場のない両手を宙に遊ばせる。
その鋭い爪で私を傷つけてしまうことを懸念してるみたいだけど、別にそんなに気にするほどの事じゃない。
だってウスターは、こう、柔らかくて、ふわふわしてるような人……いや、猫だから。

今だけは独り占めしていたい、そんな気持ちを込めてぎゅっと腕に力を込めればますますその体が固く強張るのを感じた。
何か凄く可愛いんだけど、彼が禁貨を集めてバンキングを呼び出してしまったら、こうすることもできなくなりそうで怖い。


「ウスター、もうバンカーなんて辞めちゃえばいい」
「はぁ!?そんなわけにいくかよっ」
「だって…もしあんたが世界一のモテモテ男なんかになってしまったら、もうこうやって抱きしめることも出来そうにないじゃないか」


そんなのは嫌だ。
聞き分けのないこどもみたく呟いて胸に顔を埋めると、未だに泳いでいた鋭い爪の生えた手がやっと私の背で落ち着いた。
やっぱりふわふわで、温かくて、気持ちのいい手だった。


「お前にそう言われると、マジでどうでもよくなってくる気がする…」
「よーしよしその意気だ。この機会にバンクなんてもの捨てちゃいましょーねーもしくはコロッケに寄付」
「だぁぁっ、それはダメだ!」


スーツケースのバンクを取り上げたら凄い勢いで怒られた。やっぱり駄目か。
でも、でもさ。ちょっと赤くなったように見えないこともない頬とか、さっきの挙動不審な様子からして、だけど。
ほんの少しくらい私が独り占めするチャンスはあるってことでいいんだよね?
それならまだ諦めないでいられる。よし、まずはウスターにバンクを手放させることから始めよう!



猫に恋した少女の話

fin.
09.1121.


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