ss | ナノ




(たまたまだった。たまたま峨王くんと物陰に隠れる阿含さんがいるのが見えて、何してるのかと思ったら五芒星最強とか言われてるMr.ドンことドナルド・オバーマンさんに峨王くんが喧嘩売ってて、というか車ひっくり返したよ五芒星の人達賭けてないで止めようってか止めた阿含さんが手刀で止めた怒ってる阿含さん怒ってる、Mr.ドンもやる気だ、うわぁぁあどうしようこれとか思ってたら勝手に足が動いていた、)



Mr.ドンの腕は峨王へ一直線に向かう。
阿含は直感的に感じる、『ヤバい』、と。
それ以上の事を考えるよりも早く、彼は手刀でMr.ドンの腕を弾こうと試みる。
が、逆にその手はあまりの勢いに弾き返された。

ああ終わった、阿含は何に対してかは分からないがそう感じた。峨王は避ける気など初めからないのだ。
しかし峨王を襲うと思われた強大な腕は、直前で、ぴたりと止まる。
目を見開いたのは阿含だけではなく、遠巻きに眺めていた五芒星の面々、そしてドンも同じだった。


「ああああああの、すいませんMr.ドンさん、いやドン様?に、日本チームの二人が貴方様にご迷惑をお掛けしたなら私が全力で謝りますのでどどどどうか手をお引きくださいませんでしょうか!?」


がたがたがたがた。Mr.ドンの身長の、腰までにも満たない少女は早口な英語で、つっかえながらもそう言い切る。
身体は震えてはいるものの、そのまま喰らっていれば無事では済まなかったであろう掌が眼前に迫っているのに、彼女の眼はドンの指越しに彼を見据えていた。
対して、ドンは、何か不思議なものを見るような瞳で彼女を眺めている。

「あ、あの、」
「お前の名は何という?」
「あ…日本語…」

ドンの口から紡がれた流暢な日本語に驚きながらも、彼女はなまえと名乗った。やっと下ろされた手に、安堵の表情を浮かべる。
既に半分泣きそうになっているなまえの頭の上に、唐突に何か大きいものが乗せられた。
それが先刻まで彼女や背後の男二名に襲いかかっていた手なのだと、気づくまでには時間がかかった。

「哀しいなぁ〜、俺はただ哀しい」
「……?」
「お前は"頂点"が持ち得ないものを持っている、もし闘志溢れる男だったのなら必ず闘いの舞台に立っていただろうに」
「いいいいいや私にはアメフトだなんてそんなの恐ろしくてとても」


ぶんぶんと首を横に振り、心の底からの拒否を示すなまえ。"頂点"が持たず、彼女が持っていると、そう言ったものは―――。
ドンは、フッと鼻を鳴らして立ち去った。内心冷や冷やしていたであろう五芒星メンバーも後に倣う。
去り際に「また会おう」と聞こえたのは都合のいい、あるいは悪い聞き間違いかもしれない、英語だったから。


あまりの恐怖に呼吸も忘れていたなまえを引き戻したのは、脳天を揺るがす阿含の拳骨だった。




小市民のささやかな、


「こンのカスが!弱ぇクセに出張ってんじゃねぇよ!」
「…フン、余計な事をしてくれたな」
「うううわあああすいませんすいません阿含さんと峨王くんが死んじゃうと思ったら体が勝手に動いてたんですひぃぃ」
「あ゙〜?誰が死ぬってんだよ誰が!」
「うわああ嘘ですウソですごめんなさいすいませんんんんん!」

(……何か、僕達が来るまでもなかったのかな、これって)

fin.
09.1017.
頂点にはなくて小市民なその子が持ってたものは『立ち向かう勇気』みたいな。


[] | []

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -