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早朝、大和がいつも通り学校へいくと、校門の前になまえがいた。
どうやら大和に用があるらしく、彼女は彼を見つけると小走りに駆け寄った。

「大和くん、どうぞ」
「これを俺に?」

不思議そうに首を傾げる大和と、その反応に困ったような笑みを浮かべるなまえ。
ある意味天然な彼の事だから、今日という日が何だったのか記憶にないのだろう。仕方無く、なまえは改めて言い直すことにする。

「誕生日おめでとう」
「……ああ、そうだった、な」

大和は驚いたように目を見開いて、先刻渡された紙袋を見下ろす。
何を渡すか迷った挙句、使い道に差し障りのないタオルになったのだとなまえは苦笑しながら話した。
その紙袋となまえの顔を交互に見て、大和は暫く黙りこくった。
どうしたのだろう、今度は彼女の方が首を傾げると、ほぼ同時に襲う衝撃。

「ありがとう、なまえ」
「え、うわ、やま、とくん?」
「俺自身忘れかけていた誕生日を君に憶えていてもらえるなんて、俺は幸せだ…!」
「や、や、やまとく、」

予備動作無しに抱き締められ、なまえの顔が赤くなる。
恥ずかしさもあったのだが何よりも、帝王と称されるほどの大和に力いっぱい抱きしめられたら誰でも苦しいはずだ。
やっとのことで「くるしいよ、」と伝えれば、大和の特徴ともいえる爽やかな笑みで「ごめんごめん」と謝り、彼女を解放した。
軽く咳き込んだ彼女の背を撫でる手は大きく温かく、力強さと同時に優しさも兼ね備えていて。
取りあえず誕生日プレゼントを喜んでもらえた事が嬉しいと、なまえは顔を綻ばせる。

「なまえ」
「うん?」
「ありがとう」
「それはもう聞いたよ」
「何度だって言いたいんだ」
「たかがタオルなのに?」
「それよりも、俺は気持ちが嬉しい」

ものよりも気持ちが嬉しい。
よくある、在り来たりな言葉なのに、大和が言うと不思議なことに嫌味にすらならない。
早朝練習があるので、グラウンドに向かう途中までなまえと大和は並んで歩いた。

「君の誕生日の日は、期待しておいてくれよ」
「そんな、別に気を遣わなくても」
「いや、これは俺の絶対予告だ」

ビシッと指をさし、いつも通りの自信に満ちた瞳で大和はそう言い切る。
射抜かれたなまえは何故か顔に熱が集まり、その原因も探らぬまま、逃げるようにして校舎へと走って行く。
爽やかな笑みに意味深な何かを隠した大和は、プレゼントであるタオルの入った紙袋を鞄に仕舞った。

彼女が数秒前、恋に落ちただなんてそんなこと。
絶対予告が外れるわけもないだなんて当然なこと。

大和は、全部知っている。



よくある、話


fin.
09.1010.
上げるの忘れてたよごめん帝王様おめでとうございます


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