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オレは自他共に認める程度には口が悪い。
別に意識してるとかじゃなく、何か自然と口をついてるカンジだ。

「刺すぞ、もー」
「やですよ、刺されたら痛いですもん」

大抵の奴はビビるけど、なまえはそうやってへらへら笑う。
戯れ程度の脅しとは言え、そんな風に回避する奴は初めてだ。あ、ほんとに刺したくなってきちゃった。

でもオレとしては、そんな余裕こいちゃってるなまえの余裕を思いっきり崩してやりたいと思う。
そのことを包み隠さず話したら、あいつはやっぱりへらへら笑ってこう答えた。

「あはは、宮地先輩はえすですねぇ」
「そんなの今更じゃん?」
「おっかない人には近づくなってのがモットーなんで、私はこれで」

そう言って、あいつはさっさとオレの前から立ち去ろうとした。
あれ、そういうことしてるとトレーラー借りてきて轢いちゃうぞー?
口では言ってみたものの一瞬でそんなものを持ってこれるはずもなく、オレは取りあえず彼女の腕を掴んで引きとめた。
振り向いたなまえは少しだけ驚いたようだったけど、普段通りの飄々とした笑みが崩れていない。オレより年下のくせに。

「離してくださいよ、宮地先輩」
「駄目。オマエの言うとおりオレ、エスだからさぁ」

掴んでいた腕をぐいっと引いて、あいつの体ごとオレの傍へ引き寄せる。
防衛本能だか何だかで咄嗟に踏ん張ったらしく若干抵抗はあったが、女子の力なんてオレにとっちゃほぼ意味のないもので。
今度こそ驚いて丸く見開かれた目に映るオレの顔は、それはもう自分で褒め称えたくなるくらいに意地の悪い表情を浮かべていた。

唇と唇が今にも触れ合いそうな距離で、なまえの呼吸は完全に止まっている。
あーあ、そのままじゃオレが刺したり轢いたりする間もなくご臨終しちゃうんじゃない?

「…えすだから、何ですか?」
「エスだからなまえ、オマエの余裕こいた面、崩してやりたいの」

あ、あと苦しみに歪んだ顔とか今にも泣きそうな顔もいいよね。
とびっきりの笑顔で言ってやれば、なまえはやれやれと肩を竦める。
一息ついた拍子にあいつはオレの意表をついて、逃げるようにこの手を逃れた。というか逃げた。
ちなみに意表というのはこれまたベタで使い回された手法、あいつは明後日の方向を指さして主将と監督がいるなどとのたまった。
まんまと騙されたオレもオレだけど、なまえちゃん、次に会った時は刺すくらいじゃ済まさないからね、本当に。


うん、決めた。次に会った時は絶対に、オレの手で泣かせてあげる。
刺したり轢いたりしないだけ、優しい先輩様に感謝してよね。





ノンシュガーボーイ

fin.
09.0930.


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