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「お休みレン、また明日ね」


リンが寝た。何か知らないけど寝ちゃった。え、ちょっと、今マスター来たらどうするのこれ。僕一人じゃ歌えないかもしれないよ。

とか何とか焦ってるうちに扉の向こうからマスターの呼ぶ声がする。帰って来たんだ。
ちょ、どうしよう。


「リン、レン、いないの?」

「は、はい!いますよマスター!」

「こんばんは、遅くなってごめんね……あれ、リンは?」


焦って出迎えればマスターが首を傾げ、僕の肩は大げさなくらいにびくりと跳ねた。
ただ口だけは正直に答えを紡いでくれる。歌う以外に使い道がないと思っていた声も案外役に立つものだ。



「リンはその、寝ちゃったんです。ええと……起こしますか?」

「……いや、構わない。今日は休暇でいいや」


ふい、と顔を逸らしたマスターを見て僕はどうしようもなく寂しくなった。捨てられるかな、僕とリンは双子で、どちらか一方が欠けたら不完全なもので、やっぱりリンが欠けた僕や僕が欠けたリンはいらないのかな。

何か凄く不安になったけど、ふと顔を上げたら目の前にマスターの顔があった。身を屈めて覗き込まれてたらしいが全然気付かなかった。


「どうしたのレン」

「え、あ……マスターに捨てられるかな、って」

するりと滑り落ちた答えを聞いてマスターは吹き出した。笑われた、真剣だったのに。
怒る隙もなく僕の頭に彼女の優しい手が乗った。


「馬鹿だな、何で私が二人を捨てるんだ」

「だって……」

「リンもレンも毎日歌いっぱなしじゃ喉とか声帯とかイカれるでしょ」

「僕らはボーカロイドだから平気です」

「口応えせずさっさと休んどけ」

「いてっ」


頭を小突かれた時、僕は自分の顔に笑顔が浮かんでいるのに気付いた。マスターも笑ってた。さっきは笑われたのが気に障ったけど、今は嬉しい。
でもリンが怒りそうだな、アイツもマスターのこと大好きだし。ああ絶対怒られる、凛に内緒で芋けんぴ食べただなんて知られたら!

芋けんぴを咥えたまま難しい顔をしていたら、三度マスターに笑われた。今度は僕の頬が赤くなるのを感じたけど、後で双子の姉にこれがばれた時のことを考えればすぐに顔から血の気が引いた。





ディアマイマスター





ついにその時はやってきて、というか案外早くやってきて。
僕とマスターの話声で目覚めたらしいリンが目を擦りながらリビングに出て来て、楽しそうに団欒してる僕らを見るなり完全に覚醒。あたしも混ぜなさいだなんて言いながら僕をぽかぽか叩いてきた。
止めるでもなく、マスターはやっぱり笑っていた。
笑顔が素敵な彼女だから、ずっと笑っていてくれればいいな。



fin.
09.0407.


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