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「どこから入った?」


最下層に程近い感覚球の上部で上級天使が口を開く
その前で膝を抱える少女はあどけない表情で首を傾けた
さらり、長い髪が肩から零れる


「虫の標本みたい」


「……否定できんな」


神経塔の中でも大きい部類の感覚球から伸びる長い針に
上級天使は、胸を貫かれ仰向けで不安定に浮いている状態だ

首だけ動かし、赤い目で少女を眺めた上級天使
偽翼を背負っていることからマルクト教団の一員であると思われる



「もう一度聞くが、お前はどこから入ったんだ」


「知らない。気付いたらここにいた」


神経塔は異形の蔓延るいわば危険地帯
最下層の一歩手前であるこの階層に武器も無しで辿り着くことは不可能にも近いことから
彼女は外界からきたわけではないのだと
上級天使は頭の中だけで理解した





「……………なにをしている」




上級天使の目の前に少女の顔があった
自分は動くことの敵わない状態なので無論動けるはずがなく
つまり彼女は感覚球をよじ登って彼の顔を覗き込んでいる

紅い瞳が、背負っている小さな白い偽翼が揺れるのを捉えた




「ええと、上級天使さまだよね。初めましてー」



彼女いわく
大熱波直前に入団したため一度も上級天使に顔を合わせたことはないそうで

同じ年頃の団員は今頃天使銃を背負っている少年か作業天使くらいだと
上級天使は思い出して苦笑した







「上級天使さまの翼は綺麗でいいな」


「教団の長だからな、そういう決まりだ」



階級の高い"天使"ほど大きな偽翼を背負うのは教団の決まりごと

ただ、大熱波の影響で偽物の翼が体の一部になってしまったことを彼は明かさない




「私の偽翼も、もう少し綺麗だったらよかったのに」




そう言った少女の翼が再び揺れ

――― 上級天使は彼女が自分と同じように
大熱波で偽翼が身体と同化してしまったのだと理解した






「上級天使さま」




少女は感覚球の曲線を描くその上で
器用に膝をつき恭しく男の手を取る





「どうかお美しい天使さまのお傍に、私を置いてくださいませんか」





上級天使は整った口元を綺麗に歪ませ
少女に似合わないその動作を小さく笑い飛ばし無機質な天井を見上げた

もう何年も空を見ていない気もした中で
少女の瞳は皮肉なほど透き通った空色だった





綺麗に歪み





「私も同じことを言おうとしていた」




感覚球に解放され身体が自由になったあかつきには
この両腕の中に彼女の空を閉じ込めてやりたいと

刹那、上級天使は確かにそう思ったのだ









fin
09.0224.


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