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ぱらりぱらり、かたりかたり、二人きりの部室に雑誌の頁をめくる音とパソコンのキーボードを打ち鳴らす音だけが響く。蛭魔の細く長い指は延々とキーボードを叩いているが、なまえの雑誌を捲る指がふと止まった。蛭魔は特に気にする素振りも見せず、膨らませていた無糖ガムをパチンと割ってまた噛み始める。それを横目に見ながら、なまえは小さく笑って口を開いた。


「ねぇヒル魔、見てこれ。アンタ月刊アメフトに載ってるよ」

「……そういやこの前取材されたな、糞ドレッドと一緒に」

「あは、これヒル魔らしい答えだなぁ」


そう言って彼女が視線でなぞったのは、『今日で地球最後の日だとしたら何をして過ごしますか?』という問いに対する、蛭魔の返答、"最後の日にならないよう、あらゆる可能性を探る"。進やキッドの返答もそれらしいと言えばそうだが、これ以上に蛭魔という男を体現した答えはないように思える。彼の頭の中には、諦めという言葉はないのだから。
なまえはそれを暫く見詰めた後、軽い音を立てて雑誌を閉じた。何気なく蛭魔が目を向けると、にこりと笑い返してくる。


「もしも地球最後にならない方法を見つけられたら、蛭魔はそれを実行するの?」

「そりゃあな。実行しないと探した意味ねぇだろ」

「アメフト辞めろって言われても?」

「問題ねぇ」


彼に言わせれば、一度辞めてからもう一度始めればいいだけのこと、だそうだ。何て発想の転換。流石泥門の悪魔、とでも言っておこうか。
なるほど、と一応相槌を打ったなまえだが、一呼吸置くと再び口を開いた。


「じゃあさ。もっかい仮定の話するけど………私が死ねば地球が滅ばない、っていったらどうする?」


これはアメフトの件とは違い、一度死んでからもう一度生き返る、などということは出来やしない。地球か、なまえか、一方しか残らない。世界から見ればローリスクハイリターンだ、なまえ一人の犠牲で地球と地球上の人間全てが助かるのだから。それを聞いた蛭魔は数秒間の無言を発し、やがて小さく「くだらねぇ」と呟くように言った。「だよねぇ」となまえが笑いながら返すと、彼は今まで開きっぱなしだったパソコンを閉じた。



「そん時は諦める。お前のいねぇ世界生き残ったって楽しくもなんともねーからな」



普段と変わらぬあまりにも淡々とした声に、言葉を失くすなまえ。ハッタリを言う時と同じだが何かが違う、まるで当然だとでもいうかのように自信に満ちた声に聞き惚れてしまっただなんて、口が裂けても言えない。


「………ふーん」


顔を背け素っ気ない反応を返すなまえを眺め、悪魔のように口の両端を吊り上げる蛭魔。見えなくても解る。今、彼女の頬が真赤に染まっていることくらいは彼でなくともわかるはずだ。


「……ま、二人っきりで最後の時を迎えるってのも悪くねぇだろ」

「そりゃ……光栄、だね」


口元を隠しながら短く答えるなまえの頭に、蛭魔の手が置かれぐしゃぐしゃにかき混ぜた。彼女は特に抵抗せず、隠された口元は緩い弧を描いていて。確かに幸せを感じていた。
泥門の悪魔と呼ばれた蛭魔もまた、同じだった。





掛替えのない





あなたがいなくなるくらいなら

いっそ共に終焉を迎えましょう


END




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